2022年12月の出来事


写真:前日から朝まで物凄い強風が吹きつけた日の午後.
空気がとても澄んでいました.

もう1月の後半ですが,あけましておめでとうございます.
今年も相変わらず南房総の海と海辺の生き物たちを記録しながら,ここ「カヤック日記」でご紹介していきます.
毎月見て頂いている方も時々見てくださる方にも楽しんで南房総の自然に親しんで頂ける場所としていきたいと思います.
どうぞよろしくお願いいたします.

まずは12月のTwitter投稿より引用し追記します.
投稿日が投稿内容の観察日ではない場合もあります.

2日
今日の海辺.南向きの海岸では虫がまだまだ元気でした.
南房総の12月はまだまだ虫の季節なのです.
そして年が明けて一段階気温が下がったかな?と思う間もなく暖かすぎて上着がいらなくなるような日がポツポツやってきます.
そんな日には春に起きるはずの虫たちもちょこちょこ顔を出し「春が来たかな?」とノロノロ動き出したりして,結局南房総は年中虫が動いているという環境です.
それでいて通年通して一日の気温差が大きいのも特徴です.
冬では日中にそれほど気温が下がらない暖かな日が多く,朝方はそれなりに霜が降りたりもします.
夏は日中はとても暑いですが,夜間は急に涼しくなりクーラーなしでも寝られる日が結構あります.


写真:なんと12月にヤマトマダラバッタを確認しました.

これらは海の水の温度が関係していて,暖かな水を南から安定して供給している黒潮が南房総のすぐ沿岸を通っている事が主な要因と言えます.
冬将軍が気温を下げようと頑張っているのに海の水はなかなか冷えず,真冬でも15度くらいはあります.
海水面温度を見てみると分かりやすいです.
参考:関東・東海海況速報 千葉県ホームページ
昨年最も水温が下がった日と見られる22/3/8の水温でも館山湾は15℃ありました.
気になった方は上記のページ内で日付を辿ってみてください.
なかなか面白いですよ.

つまり気温が下がる冬の夜間にも海面の空気が海水で常に温められて,温まった空気は上昇しようと海岸を登っていくわけですね.
それが結果的に気温が下がりすぎずにある程度の温度を保つ効果があるという事になります.
これは私は勉強して得た情報ではなくカヤックに乗って体感的に理解したものです.
冬にカヤックに乗ると,海岸で準備をしていた時よりも海面に出た後の方が暖かいのです
. そしてそれでも素手ではかじかむような日には手を海水に浸けてみると温いのです.
海面で手が冷えたら水に浸けると暖かいですよ」とお客さんに言うと「ほんまかいな?」という顔をされますが,一旦経験してみると常識となります.
これはただし黒潮の通う南房総での常識ですが,黒潮の流れる海域としては最も北に近い場所ですから特に気温が低い割に水温が高いという感じが強いという事になります.
カヤックに乗るとこういう事が知識として入るのではなく感覚的に感じられた結果理解に繋がるという事が多いと思っています.


写真:ウラナミシジミが舞いイソギクが咲く南房総の12月.

知識として「知っている」というのはなかなか弱いもので,逆に経験してから考えて,更に調べれば身になるという経験がシーカヤックを始めてからの自分にはかなりありました.
このプロセスは学校教育では全く逆の流れになっていますから,気付きから広げるという本来子供の時に誰もが持ち合わせていた癖を忘れさせる事になってしまっています.
学校で覚えた事を日常や自然の中で体感したり応用したりする経験ができれば,まだ良いのですが,それさえも薄れてきています.
小さな発見でも自分で見つけて,それについて思いを巡らせて,調べて自分の想像したことの幅を広げて,それを今後に活かすという流れが少なくともアウトドアでは(つまり自然の中で過ごすには),とても重要な事です.
そういう意味でシーカヤックは今まで「教育」ではできなかった「験育」をする方法として最適だと自分の経験上から感じています.
「験育」は今,思いついた造語ですが,「験」は「しらべる。ためす。こころみる。」という意味があるので,実際的に経験して理解し学ぶという事になるかなという感じです.
ですから東京海洋大学の先生が私の講演を聴いて下さって,一種の体育と海環境の理解とを融合させるアイデアを思いつき,それを授業として完成させてくださった事の先見性に驚いています.
それが2005年の事ですが,今ではカヤックを用いた実習は様々な学校教育で行われるようになっていて,それはとても必然的な事だと感じています.

話が逸れましたが,その海水温と気温の関係の事を考えてみて気づいたのは,寒い日に海面をカヤックで漕いでいると,特に風が弱い日ほど妙に暖かい理由もそこにあるという事でした.
海面近くの空気は常に温かな海水で温められていて,その最も暖かな層の中に海面からの背丈で言えばほんの1mほどのカヤッカーは治まってしまうからなのです.
温まった空気は上昇していこうとしますから,温められて間もない,まだ上昇するほど温まってはいない空気は水面の近くのかなり薄い層の中にだけ残っているはずですが,カヤッカーはその薄い層の中に納まっていられるのだと想像しています.
ただし風が吹くとその強さに応じてかき混ぜられた空気は温度が下がってしまうはずです.
なので,風の影響で海面にいても寒くなってしまうという理由が風速による体感温度の変化に加え,加温層のかき混ぜ効果というもうひとつの要因が加わるという事になります.


写真:繁殖期を前にハヤブサも活発です.
この直前にノスリに追いかけられ餌を狙われていましたが,離脱成功し大きな鳥らしき餌を夢中で食べています.

更に,これが夏になると逆の効果を得られます.
海岸で準備をしているだけで熱中症にかかってしまうような日でも,カヤックに乗って海に出るとかなり涼しいのです.
「そりゃ水が近くにあるからね」と,その通りなのですが,水面に近い空気は冷やされてから低いところに行こうとしますから水面近くのほんの薄い膜のような領域だけが涼しいのです.
カヤックは冬とは逆の条件でもその中にギリギリ治まるような背丈の乗り物だと言えそうです.
ですから,おそらくSUP(立ち上がってサーフボードに乗りながらパドルを漕ぐ遊び)やヨット等の小型船舶のような数メートルという程度の高さの違いでも人のいる位置,特に温度を感じやすい顔のある位置が海面からの距離が高くなるほどに,その恩恵を感じにくくなるはずです.
「カヤックに乗った人の背丈が低いという事の利点が海水の影響を受けた気温の点にもあるよ」という話は今のところ聞いたことがありませんが,もしかすると「重心を低くして安定を向上させる」,「風の影響を少なくする」,「波の中を潜り抜ける時の抵抗を減らす」等の目的以外に,北極圏で発達したカヤックが水温による空気が温められる層の中で過ごす事で体温の低下を抑えるという目的があってのカヤックのデザインだったのかもしれないという想像をしています.
ただし大昔の人が「考えた」という事には感覚的で直感的な鋭い視点が隠されていると思いますから,今の時代の頭の中で考えた結果のデザインとは全くレベルの違うものと思います.
今,遊びの道具として使われているカヤックが,そもそもは命がかかった生活のための道具として発明され,発展してきたのだという事を考えれば私たちが気楽に楽しく海に出られている事の大基に太古の人々の命がけの経験が活かされた結果の今のカヤックの姿があるのだという事を忘れずにいたいなと思うのでした.
カヤックの形の不思議は話すとキリがないですが,興味がありましたらツアーで長々とお話しさせていただきますので是非リクエストしてください.(既に長いですが,話し出したらほんと長いです...)


写真:波のフェイスから垣間見た世界.浅瀬で暮らす魚たち.
右の連なった黒いのも魚です,黄色い小さな魚も見えますか?

5日
前日のカヤックツアーでの海を写真とでご紹介しました.
岩場にはウミウとヒメウ,夕方には塒に帰るカワウの群れのV字飛行が幾度も通過して楽しませてくれました.
一方,磯場に漂っていた巨大な漂着ゴミ等もありました.
海環境の素晴らしい面,悲しい面の両方を見て頂くのもツアーの意味と考えています.
当日の朝は凄まじい風でしたが,風向きと地形を十分に考慮して,風向きが変わり風速が予想通りに下がるのを待って昼からツアーを行いました.
参加されたSさんも風の中での漕ぎをそれなりに経験していますので,問題なく出ることが出来ました.
ツアーでは参加者の経験に合わせて判断いたしますので,安心してご参加ください.
逆に言うと,皆さん同じ経験をするわけではなく,毎回のツアーがいつも違うものであるという事をご理解ください.

9日
今日は久々にスナハマハエトリ(クモ)の観察メインで海岸へ.
初めて見たクモもいました.
フクログモの仲間?
帰りには薪にする流木を拾って帰りました.
海辺の貴重な資源ですから海岸清掃でただ燃やしてしまうのでは勿体ないですね.
燃料の貴重さが強く感じられる情勢と自然環境の時代がやって来ていますから,こういった素材も無駄にはできないという事が当たり前になっていくでしょう.


写真:この日はすぐ近くで観察させてくれたミユビシギたち.
追わずに行動を予想して待つのがコツ.

17日
今年も港でアオサを食べているミユビシギを見ることが出来ました.
本当にアオサを食べているのか?と疑いながらいつも観察してみてますが,やっぱりアオサを食べているように見えます.
アオサの中にいる何かの生き物を食べてるんじゃないのかなあ?と最初は思ったんですが.
これについてはもう少し探求していくつもりです.

18日
懐かしいLotus Designsのパドリングシューズ,の箱が出て来ました.
2000年代初頭まではPatagoniaでカヤック関係のウェアやパドリングシューズも売っていたのです.
パドリングウェアはむしろ大きなライナップだったと思います. そこから派生したヨット用ウェアまであったりもしました. 特に気に入っていたパドリングシューズで,直しながら何足か履きつぶしました.
この靴を使ってたのは随分昔のですが,現物もギリギリ履ける状態で保管してあります.
愛着のある道具を捨てられない困った性格です.
まだ館山にイルカがいた頃でしたので,道具の中にその時代の南房総の海も浮かんできます.


写真:こんなに荒れた海でカワセミを見たのは初めてでした.

24日
強風の海面上で風上に向かってホバリングをしているカワセミに遭遇しました.
海での捕食場面は時々見られますが,強風の中での採餌目的で無さそうなホバリングというのは初めて見ました.
海面は砕けた白い波で覆われていましたから魚は見えないはずですし,そもそもダイビングするには流石に危険な状況だったと思います.
繋げて動画にしてみましたので是非ご覧ください↓
https://youtu.be/Ctj2brfe-mc

25日
この日はとても空気が澄んでいて富士山と三浦半島と城ヶ島がクッキリと近く見えました.
実際の距離は城ヶ島まで約20km,富士山頂まで約100kmです.
大型船舶がひっきりなしに通過するような場所で無ければ,例えば千葉県沿岸で太古の丸木舟が行き交っていたような時代か,せめて江戸時代くらいであればカヤックで気楽に横断を楽しめたはずですが...現代ではなかなか難しい時代と考えて私は一度も渡っていません.
横断そのものについては距離的にも海況的にも全く問題ないですし,この水路を渡る事で得られる経験はかなりあるのは確かで,生き物の情報もかなり得られるはずです.
しかし,シーカヤックに対して一般の方,海上保安庁他に心配をかける機会が増えてしまう事になってしまう事が心配なのです.
そういう点では非常に慎重にやってきましたが近年の事故の頻度の高まりの中で更にそれを強く意識していく必要が生じています.
南房総でシーカヤックを漕いでいても年に数回しかカヤッカーに遭遇しなかった90年代を経て,次にカヤックが普及していくにつれて沿岸の人々のシーカヤックに対する理解が深まって来たと感じた時代を経て,そして現在,数が一定以上になった事で問題が生じる頻度が高まりすぎたという状況のようです.
日本の海面ではまだまだマイノリティな存在ですから,商業ツアーを運営されている方も個人で楽しまれている方も自分がカヤックで起こすことは良い事も悪い事も全て「カヤックの人」がやった事として,つまり全てのカヤッカーがやった事として記憶されるのだと考えて行動しなければならないという事です.
普及の度合いを考えても今がピークでしょうから,これから十分に注意していけば将来的にはまた理解が深まり,「カヤックの人」の印象も変えていけると思います.


写真:卵が付いた状態で打ちあがったタコブネの殻.
卵は初めて見ました!

26日
ポッドキャスト南房総海音日記に「2022年11月のカヤック日記」をアップしました.
今回もTwitter投稿内容に補足したものと砂浜海岸の保全に関する内容を加えてあります.

30日
内房某所で久しぶりのアリソガイを拾いました.
やはり大きな二枚貝は存在感がありますね.

31日
大晦日ですが,今日も変わらず海辺を見て歩いてきました.
某港ではミユビシギがいつもよりもかなり近くで観察出来ました,港が稼働してないから落ち着いていたのか?鳥も正月モードなのでしょうか?


写真:イロワケヤッコという鮮やかな小さな魚が打ちあがっていました.
「色分け」とはなるほどな命名ですね.

Twitterの引用は以上です.
今月もいろいろな事がありました.

写真は鳥が多めです.
この冬もミサゴの個体識別用写真を撮ることと,海浜植生の様子を観察する機会を増やしています.
昨年まで高頻度で行っていた海面のムシ,クモは今年は行っていません.
昨年までかなりの標本を得て,とりあえずこれ以上ムシを殺さなくても良いかなと考えたりしています.
現場に行くとやはり海面での様子の撮影などできる事がありますが,種の特定をしたいという欲求が生じて採取に至ります.
去年までに収集した標本の同定など,他の研究者の方にお願いしてあるものの段階が進んで,また更に情報が必要となれば来シーズンにはまたやるつもりです.
なによりまず自分が昨シーズンまでに記録したものを公表していく事などが先決と焦ったりしていますが,焦っても始まらないのでコツコツやっていきたいと思います.
何か将来に有用な,それはヒトにではなくできればそれら生き物にとって有用な記録となるようにしていければという考えです.

というわけで,2023年もどうぞよろしくお願いいたします.
今年もいろいろと変化の多い年となりそうですから,三角波の中をむしろ楽しんで安全に漕ぎ切っていきましょう.
変わらず海でお会いできるのを楽しみにしております.


写真:海岸で領土を監視中?のモズ.
海にやって来る鳥は「海鳥」だけではありません.

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