2022年8月の出来事


写真:とても暑い夏が終わりました.野島崎灯台をカヤックで沖から眺めるとこんな感じです.

写真:とても暑い夏が終わりました.
野島崎灯台をカヤックで沖から眺めるとこんな感じです.

やっと秋らしくなった9月の半ばに更新しています.
まずは今シーズンのウミガメの産卵記録をご報告しておきます.
根本,砂取,滝口は6-8月の毎日調査.
名倉,千倉,白子,丸山,海発,和田,平砂浦については月2回計6回の調査のため発見日=産卵日ではないこと,また時間が経って不明瞭な痕跡もあり,産卵判断について難しい場合もあります.
尚,「上陸のみ」は足跡のみで産卵するための行動を行った痕跡なし,「BPあり」は卵を産むための行動をとった痕跡(ボディーピット)はあるが卵は産んでいないと考えられるもの,「産卵」は卵を産んで海に帰ったと考えられる場合を示します.
ただし産卵に関しては卵を掘り出しての確認は行っておりませんので,産卵痕跡の状態から産んであると判断したものです.

写真:意外なほど浅瀬で海藻を食べている若いアオウミガメを見かけることがります.産卵しに来るのはアカウミガメでもっと大きな個体です.

写真:意外なほど浅瀬で海藻を食べている若いアオウミガメを見かけることがります.
産卵しに来るのはアカウミガメでもっと大きな個体です.

6/7 根本 上陸のみ(6/6は荒天により調査をお休みしていましたので,前日上陸の可能性もありますが潮間帯にあった足跡のため昨夜から今朝にかけてと考えられます)
6/11 滝口 産卵
6/13 平砂浦 産卵?(BPの状態が微妙であったため産卵していない可能性もあるが痕跡が不明瞭なため判断に迷う)
6/20 千倉 産卵
7/1 根本 産卵
7/5 滝口 産卵
7/5 滝口 産卵
7/10 根本 産卵
7/12 平砂浦 産卵
7/19 根本 産卵
7/21 千倉 BPあり
7/22 砂取 産卵
7/22 千倉 産卵(前日に記録し忘れた内容があったため,再度出かけたところ発見)
7/27 平砂浦 上陸のみ
8/5 海発 産卵
8/5 千倉 産卵
8/7 滝口 産卵
8/8 滝口 上陸のみ
8/9 滝口 産卵
8/21 根本 産卵?(アカウミガメが岩場の窪みから出られなくなっているところが発見され,その経路に産卵痕跡があったが産んであるか微妙)
8/25 根本 産卵
8/26 砂取 産卵
8/28 根本 上陸?(潮間帯に足跡とBPらしき痕跡があるが波で洗われており不明瞭なため判断が難しい)
8/30 平砂浦 上陸のみ
8/30 平砂浦 上陸のみ

写真:今シーズンは出逢う機会の多かった美しいトウネン.とても小さなチドリですが,あまりこちらを怖がらず近くで観察させてくれます.漂着海藻の中に暮らす生き物が彼らの食べ物です.

写真:今シーズンは出逢う機会の多かった美しいトウネン.
とても小さなチドリですが,あまりこちらを怖がらず近くで観察させてくれます.
漂着海藻の中に暮らす生き物が彼らの食べ物です.

産卵×16(確かなもののみ),BPあり×1,産卵かBPのみか不確かなもの×2,上陸のみ×5,上陸痕跡か不確かなもの×1の計25のウミガメの痕跡確認でした.
調査している砂浜海岸のそれぞれの距離は
平砂浦6㎞(相浜含む)
根本0.9㎞
砂取-滝口2.1㎞
名倉0.2㎞
千倉-瀬戸浜2.1㎞
白子-和田6.6㎞
計17.9㎞
全体で約18㎞の区間で16回の産卵となり,1㎞あたり0.9回の産卵,上陸回数で言うと0.7回となりました.
そういう頻度で南房総にウミガメが上陸して来たという事になりますが,場所は偏っています.
それは調査頻度も場所によって違い,頻度の低いエリアは数日風が吹けば痕跡は消えてしまいますから未確認の上陸が多数あるはずです.

写真:ハマナタマメの上で交尾するウラナミシジミ.この幼虫はマメ科が食草なので産卵している姿もよく見られます.

写真:ハマナタマメの上で交尾するウラナミシジミ.
この幼虫はマメ科が食草なので産卵している姿もよく見られます.

毎日調査を行っている白浜エリアの頻度を数えてみると
6/7 根本 上陸のみ(6/6は荒天により調査をお休みしていましたので,前日上陸の可能性もありますが潮間帯にあった足跡のため昨夜から今朝にかけてと考えられます)
6/11 滝口 産卵
7/1 根本 産卵
7/5 滝口 産卵
7/5 滝口 産卵
7/10 根本 産卵
7/19 根本 産卵
7/22 砂取 産卵
8/7 滝口 産卵
8/8 滝口 上陸のみ
8/9 滝口 産卵
8/21 根本 産卵?(アカウミガメが岩場の窪みから出られなくなっているところが発見され,その経路に産卵痕跡があったが産んであるか微妙)
8/25 根本 産卵
8/26 砂取 産卵
8/28 根本 上陸?(潮間帯に足跡とBPらしき痕跡があるが波で洗われており不明瞭なため判断が難しい)

産卵×11,上陸回数×15で不確かな8/28を省いて14回上陸うち11回産卵とすると,距離の合計が3㎞ですので,1㎞あたり4.6回の上陸,産卵は3.6回となります.
調査頻度が低いエリアも未確認のものを含めればこのような頻度で上陸が行われている可能性があると考えられます.

写真:今年もウミネコの幼鳥が北の繁殖地から沢山渡ってきました.黒っぽい個体がこの春に産まれたばかりです.野生って逞しいですね.

写真:今年もウミネコの幼鳥が北の繁殖地から沢山渡ってきました.
黒っぽい個体がこの春に産まれたばかりです.
野生って逞しいですね.

調査頻度の低い館山市の太平洋岸,平砂浦は以下のようになりました.
6/13 平砂浦 産卵?(BPの状態が微妙であったため産卵していない可能性もあるが痕跡が不明瞭なため判断に迷う)
7/12 平砂浦 産卵
7/27 平砂浦 上陸のみ
8/30 平砂浦 上陸のみ
8/30 平砂浦 上陸のみ

現在の調査頻度でのそれらの海岸のウミガメの上陸頻度は平砂浦で産卵×1(たしかなもの),上陸5回ですので,海岸長6㎞で1㎞あたりの産卵は0.2回,上陸頻度は0.8回となってしまいます.
そもそも平砂浦は東部に護岸が海岸線に迫っており,大潮の高潮時には砂浜が全て波に洗われてしまう範囲が広いため上陸して痕跡が残る可能性がほとんどないために低頻度となっているはずなのですが,そもそもそういった場所に産卵をしたとしても卵は無事ではないですから無駄な上陸を繰り返している可能性があります.
実際今シーズンも護岸に行き当たって産卵を諦めたケースが複数見られました.

写真:和田海発での産卵上陸痕跡.奥行きがあるので平砂浦ほど問題はないですが,奥の松林の手前にあるサイクリングロードに落下する母ウミガメがたまにいる事の問題と強力な台風が近年サイクリングロードに達する頻度が高まっています.

写真:和田海発での産卵上陸痕跡.
奥行きがあるので平砂浦ほど問題はないですが,奥の松林の手前にあるサイクリングロードに落下する母ウミガメがたまにいる事の問題があります.
更に強力な台風が近年サイクリングロードに達する頻度が高まっています.

一方,護岸は多いけれど砂浜の奥行きが比較的残されている千倉から和田までの海岸線はどうでしょう.
6/20 千倉 産卵
7/21 千倉 BPあり
7/22 千倉 産卵(前日に記録し忘れた内容があったため,再度出かけたところ発見)
8/5 海発 産卵
8/5 千倉 産卵
産卵×4回,上陸回数5回で海岸長8.7㎞ですので,1㎞あたり0.5回産卵,0.6回上陸となります.

調査頻度が同じ平砂浦と比べると
産卵頻度 平砂浦×0.2回 千倉-和田×0.5回
上陸頻度 平砂浦×0.8回 千倉-和田×0.6回
となり,平砂浦では上陸しても卵を産まずに海に帰って行ってしまう母ウミガメが多いという事になります.

毎日調査している白浜エリアには光害が多く影響していると考えていて,その状況を記録するために調査を始めたのですが,平砂浦のように光害が全くというレベルで無い好条件でありながら人為的に加工された地形によって影響が出ています.
先に書いたように平砂浦海岸は海岸の東部に特に多い護岸が産卵に影響していて,大潮の満潮時に行って見れば分かりますが現在の状況が産卵に適していないのは明瞭です.
比べて千倉-瀬戸浜,白子-和田にかけては海岸松林が維持されている場所が多く,海岸沿いに自動車道や建築物もほとんどないので光害は少ないですし,海岸護岸も平砂浦と比べればかなり奥まっている場合が多いなどウミガメの産卵に対する人活動の影響がやや少ない場所と言えます.
それでも海岸に沿った大きな道路が少ないのは良いのですが,私も調査で活用しているサイクリングロードがあり,落差1mほどの硬い路面に母ウミガメが落ちるという事例を少なくとも2例確認しています.
それぞれにウミガメの産卵に対する問題があります.

写真:台風で慌てて帰っていったキャンパーが残していった土嚢散らばる根本海岸キャンプ場.テントを抑えるために使っていたわけですが,想像以上の雨風に逃げ帰るような想定が出来ないキャンパーは大体こうです.単に宿泊費を浮かすことが目的でキャンプをしているのでしょう.

写真:台風で慌てて帰っていったキャンパーが残していった土嚢が散らばる根本海岸キャンプ場.
テントを抑えるために使っていたわけですが,想像以上の雨風に逃げ帰るような想定が出来ないキャンパーは大体こうです.
単に宿泊費を浮かすことが目的でキャンプをしているのでしょう.

以降は8月のTwitter投稿より引用します.
今月は投稿が少なめでした.

3日
10年前の今日,千葉県最南端辺りで漂着していたクサビフグの写真が出てきたのでご紹介しました.
フグと言ってもマンボウに近い種類でマンボウを小さくして速く泳げるデザインにアレンジした感じです. 興味のある方はTwitterで是非写真を見てみてください.
漂着海藻に埋もれるように頭だけ見えていたので,体の後半が欠けているような形に驚きました.
これは珍しいのではないかと思い,現場でスマホを使い調べたところ記録の少ない種だと分かり,それについてネット上でも記載していた神奈川県立生命の星・地球博物館に打診後に郵送しました.
あれからずっと標本室で静かに眠ってるはずですが,10年も動きがないので,いつか役に立つのだろうか?という気がしてきました.
担当の方によると「クサビフグの小型個体で,相模湾からの記録は少なくとも2006年までない」との事でした.

12日
クサビフグのように面白い形の幼魚が漂着してました.
形はフグの仲間っぽい?と思って調べてみたところネットで同じ魚が載ってて,やはりフグの仲間とか書いてありましたが確かな情報ではないようでした.
フグは毒もってたり,膨らんでみたり,子供の時はこんなデカい棘つけてたり,とにかく臆病なのだなあと思ったり.
それで結局泳ぎにくくなってしまっているのだと思うと気の毒...
追記
その後,観音崎自然史博物館の山田和彦さんにセミホウボウと教えていただきました!
気の毒だなんて言ってフグには失礼しました.

20日
前日にハマナタマメを観察に行った時に花に来ていたハチを紹介しました.
ハマナタマメは花が普通のマメ科と逆さまなので,ハチの方も逆さまになってアクロバティックに対応していました.
そしてその状態でハチの腹部にうまい具合に花粉が付く仕組みになってました.
ハチの種類はハキリバチの仲間のようで,スミスハキリバチというのに似ていましたが,自信はありません.
昆虫の同定は本当に難しいですね.

写真:海面を漂う海藻かなにかのように擬態している魚がいました.上記のセミホウボウと一緒に観音崎自然博物館の山田和彦さんにマツダイと教えていただきました.

写真:海面を漂う海藻かなにかのように擬態している魚がいました.
上記のセミホウボウと一緒に観音崎自然博物館の山田和彦さんにマツダイと教えていただきました.

21日
午前,ちょうど白浜エリアのウミガメ調査を終えたところで同じく白浜は根本で宿をやっている知り合いから連絡が入りました.
根本海岸に産卵上陸してきたウミガメが複雑な岩場の迷路で立ち往生しているところを,宿に泊まっていた方々が発見したという内容でした.
ほんの数時間前に調査で歩いた場所ですが,岩場の隙間に向かう足跡で見逃していたようです.
連絡をもらって現場入りしライフセーバーの皆さんと救出を行いました.
カメは岩の隙間にある深い窪みに溜まった雨水の中に浸かるようにして人に囲まれて困っている様子でした.
それまでに根本海岸を監視している白浜ライフセービングクラブの皆さんが仕事の合間に,あとはOBの人もたまたま沢山来ていたので,救出を試みてくれていました.
結果的には無事に海に帰ってもらうことが出来ました.

その様子はYouTubeにアップしてありますので,こういう事例に出くわした時の対応参考の1例としてご参考にしてください.
毛布やブルーシートなどがあればウミガメ,イルカといった流線型で掴みどころがなく,唯一掴めそうなヒレは重力に対応している地上生物とは違いかなり繊細なものですので,そこを掴んで力をかけると,その生き物にとって大きな負担になってしまいます.
もしそれで気づかずに不具合が生じればせっかく海に帰っても生存に問題が生じるかもしれません.
その点を解決するうえでヒレ足の海の大きな生き物を助ける場合に大きな丈夫なシート状のものがあると動物に負担をかけずに大勢で運べるようになります.
こういった作業は動物による傷害(誤って噛まれる,大きな筋肉を備えたヒレで叩かれるなど)の危険,その他怪我,海に近い現場では海難事故になってしまう可能性もあり,まず最も大切なのは人間側の安全です.
その辺りの情報,知識,配慮が難しい状態で,特に興奮した状態での作業は大変危険ですので,お勧めいたしません.
冷静に客観的に判断する余裕を持てる海と海の動物に知識のある人がいない場合には決して無理をしないでください.
これらはすべて自己責任です.
今回は海での救助者としての訓練を積んできたライフセーバーが手伝ってくれていたので大変心強かったです.


写真:ぎこちなく飛んでいる感じがかわいらしいコチドリの幼鳥.

写真:ぎこちなく飛んでいる感じがかわいらしいコチドリの幼鳥.

ちょうど今シーズンはライフセーバーのOB等にレスキューの対象をヒトだけでなくチドリやウミガメといった海辺の生き物まで広げて考えていったら,ますます活動の幅が広がるんじゃないか?!といった提案をしていたところでした.
なんと言ってもライフセーバーですからね.その名称に動物とヒトを区別する意味は込められていないところの意味がこれから大きくなっていくでしょう.
きっと,遅くとも50年先のサーフセービングはそうなっていると私は考えています.
その流れで考えてみると海上保安庁が海の生き物を護るという事に関わっていくのも時間の問題と言えそうです.
時代がそっちに進んでいます.
海上(生物)保安庁でもあって良いはずです.
むしろ海上保安庁の仕事がそちらに広がった結果としてライフセーバーの仕事もそっちに広がる必然が起きるという流れも考えられます.
いずれにしても,彼らのような仕事を選ぶ人々の心が海で生き物が苦しんでいる姿を放っておけるはずも無いでしょう.

今回,ウミガメの救助に際してお世話になった方々のリンクをご紹介します.

2000年に根本海岸で初めてウミガメの上陸痕跡と卵を偶然発見した時からのご縁です.
根本海岸の目の前に当時,唯一の建物でした.
当時は「牧水亭」という食堂でしたが,もう随分前にコテージ業を始められ,現在大人気の宿となっています.

こちらも現在貸し切りコテージとなっていますが,少し前までは海を眺めながらお茶のできるおしゃれな喫茶店でした.
オーナーの方は絵描きでサーファーという素敵な方です.
いずれも素敵なロケーションとなっていますので,お勧めです!

日体大のライフセービング部がルーツのクラブで,1999年から根本海岸等で監視業務を行っています.
私がウミガメ調査を始めた時期と重なり,何代にも亘って仲良くしてもらっています.
根本海岸は海水浴場としては大変厳しい海ですので,ここで安全を保つのは大変な業務です.
私もつい煩いアドバイスなどさせてもらっていますが,これから先も大変期待しております.
夏の根本海岸に行った時には是非彼らに声をかけてみてください.

写真:結実したグンバイヒルガオに集るカメムシ.

写真:結実したグンバイヒルガオに集るカメムシ.
ヒメジュウジナガカメムシというそうです.

24日
凄まじい暑さの砂浜に広がるグンバイヒルガオの上でヤマジハエトリがホオズキカメムシ(上の写真とは別種)を捕食していました.
ホオズキカメムシはヒルガオ科の害虫だそうなので,ヤマジハエトリはグンバイヒルガオにとっての益虫なのですね.
人間にとっての視点で益虫,害虫と区別しますが,生き物それぞれにとって,特に植物にとっての益虫,害虫という視点でそれぞれの虫を見てみたらいろいろと意識が変わるのではないかと思います. 更には人の場合は不快さで害虫に指定したりもしますが,自然界ではそういう視点は多分ないでしょうね. 植物に確認しないと分からないので多分ですが... しかし,それにしても暑くないんでしょうか?撮影者はシャツが搾れるほどの汗まみれでした.

29日
この日,根本海岸に7/1産卵してあったウミガメ巣の周りに子ガメの死骸が4個体見つかりました.
巣の位置が海に近すぎるので台風で波を浴びたりして,卵の流出などの心配をしていた巣なのです.
目の前が海だというのに,海に辿り着かずに,例えば鳥に突かれたという様子もなく,そこで死んでいるという今まで見た事が無い不思議なケースでした.
脱出穴と思われる穴のそばで逆さまになって死んでいた個体もありました.
いったい何があったのでしょう?
謎が多かった事もあり,久しぶりにそのまま巣内調査を行いました.
巣の外にいた子ガメ死骸×4
巣内にいた子ガメ死骸×6
巣内にいた生存子ガメ×4
子ガメのが半分出ていながら孵化に失敗していた卵×7
未割卵(死んでいるか未発生とみられる)×22
孵化成功卵78+欠片約2個分
卵109個
子ガメ死骸と死亡卵の計×39
巣内はきっちり見ましたが,海岸でもっと遠くへ移動していて死んだ未確認死骸もあるはずですが,とりあえず卵の数から確認できた死んだ子ガメの数を引いて70個体が海に帰った可能性があるという記録になりました.

写真:海の水に触れることもなく死んでしまった子ガメの前ヒレ.この立派なヒレを使って太平洋を泳ぎ渡りたかったでしょうね.

写真:海の水に触れることもなく死んでしまった子ガメの前ヒレ.
この立派なヒレを使って太平洋を泳ぎ渡りたかったでしょうね.

巣内調査は今回のように巣内で弱っている子ガメが衰弱しきっていて,海岸に放しても海に歩いていけないし,海に放しても泳げないという状況に出くわしてからやめました.
そのような場合にどういう対処が適切かと考えると本来的には巣内で淘汰されたはずの個体であるものを救出し弱い遺伝を残してしまうという攪乱を私が行ったことになると言えます.
それは私の調査方針の中で最も避けたい事です,
しかも感情的にも実際的にも生きていけない子ガメの対処は大変な苦痛が伴います.
そう考えると巣を掘ることはタブーなのだと考えるようになりました.
今回,巣の外で子ガメが死んでいるという新たな問題が見当たらなければ巣を掘ることは無かったのですが,結果的に巣から脱出できなかった弱い個体を助けたことになります.
これが正しいこととは思えないのですが,結果的にそう対処するしかなかったという状況です.
子ガメが巣のすぐ近くの地表で死んでいた理由は結局巣を掘っても確かめられませんでした.
余計なことをしたのかもしれません.

母ウミガメの救出もあり,今回は子ガメの対応と,いずれも神経が疲れるような緊張感があります.
自分が関わることで生き物に問題が起きるようであるならば関わらない方が良い訳なのです.
その彼らの様子を手を下さずに死んでしまう状況まで含めて見守るしかないといった場面もあり得るわけで,そういうものまで受け入れられるような精神力と体力が必要になると感じました.
例えば動かせない巨大なクジラが生きたまま打ちあがった時などはそういう状況ですし,今回や以前生存イルカが漂着し救出した時も人に接することがその動物にとって恐怖でしかないという事を救出しようとしている側は忘れがちです.
少なくとも彼らの視界に入らずに体に負担をかけずに,理想的には「なんでか分からないけれど,たまたま海に戻れた」と動物が感じるような感じで救出してあげられればベターでしょう.
もちろん難しい事ですが.
そんな感じで,生き物に接するというのは本当に難しい事だと強く感じた8月でした.

写真:夏ならではの海の色

写真:夏ならではの海の色



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