2022年7月の出来事
この7月はウミガメの産卵も順調でした! 去年までは減っていく一方という印象でしたので,こんな感覚は久しぶり...というくらいな感じでした. ウミガメが幾度も産卵に来てくれるようになったのは良いのですが,6月から暑かったですし,夏が長いと感じる中で海岸で記録を取るのは体力的にはなかなか厳しいですが,やはり嬉しい事です. ウミガメが産卵に上陸すると私の場合は足跡をできるだけキッチリと記録する事に重点を置いています. ウミガメが海岸を歩いた足跡は,ウミガメが何に反応して向きを変え,そしてなぜそこを卵を産む場所と決めたのか?について我々に与えられる唯一のとても重要な情報と私は考えています. もし卵を産んだ位置と日付くらいしか情報を残さなかったとしたら,そのノートから後で分かる事は単なる南房総の産卵頻度の記録でしかなくなってしまいます. それでも無いよりはマシですが,ウミガメがどうしてそこに卵を産んだのか?,産んでしまったのか?,産まなかったのか?について考察できる情報がほとんど残されません. 産卵環境も日々変化していますし,まして年単位で時間が経過してしまえば当時の状況についての記録はほとんど見つからず,単に歴史だけが残されるので,後々にその問題点を検証しようにも状況証拠がありません. そのために海岸の状況もできるだけ記録し,ウミガメが歩いた痕跡を辿りながら進行方向をコマ撮りした動画でウミガメの見たものを再現するための写真も残しています. それらは動画にして シックスドーサルズのYouTube で沢山アップしてありますので,いくつか見てみてください. ウミガメが見ていた世界がこんなだったとは!と驚かれるかもしれません. 写真:この7月は幾度かミサゴを見ることが出来ましたが南房総で夏に見るのは珍しいんです. 通常記録されているような数字に置き換えやすい情報(座標,回数など)は各地で記録されています. それを基本的な情報として得ると同時に,その日にしか得られない記録として,あとで再現が難しいとはいえ,足跡や卵を産んだ痕跡の状態などの記録も出来るだけ残していくべきだと思います. もちろん必要となる労力はとても増えますから,それについてはほとんど無視されているか,大雑把な写真が残されている程度でしょう. 本来であれば,母ウミガメは真っすぐに砂丘を目指し,産み終えたら真っすぐに海に帰れば良いだけなのに,何故か海岸で蛇行していたり,海岸の奥に行かずに台風が来れば間違いなく波を被ったり,卵が流出する可能性さえあるような場所に卵を産むという不自然な出来事の理由はいつになっても確認できないでしょう. 「母ウミガメが卵を産み,子亀が無事に海に帰った」というだけの事を記録するのであれば,記録するために干渉するよりも,むしろ放っておいてあげた方がよほど良いと思います. 「ウミガメの保護」という言葉がよく聞かれますが,ウミガメを保護する事が人間には出来ないという事がなかなか分からないのだと思います. 保護ではなく干渉しない事が最も彼らを護ることになります. 「干渉」と一言で言うと分かりにくいですが,母ウミガメが大切に,その生き物でしか分からない決まりの中で卵を産んだ,その場所を侵さない事がまず大切です. 保護と言いながらそれを手に取ってしまうのは過干渉で,たとえ台風が来て卵が流されようとも,それを見守る事が本当だと思います. 更に遡れば,先日ELNAの田中さんのお話にも合ったような混獲など人為的な影響で親ガメが死んでしまう事例を減らす努力が必要です. つまりヒトに何ができるのか?と言えば,ヒトが行った行為の結果として産卵行動やウミガメの生息そのものに気づかずに干渉している事が無いかを十分に考え,取り除くことが結果として保護に繋がります. ただし,我々ヒトが行った行為がウミガメの行動を阻害していたという事を取り除く事が「保護」だなんて言えば全く可笑しな話です. それでやっと元の状況になるのですし,元の状況になった時にヒトが干渉する必要は無くなるはずですから永遠にヒトがウミガメを「保護する」という事には至らないはずなのです. ですからヒトにはウミガメの保護なんて出来る訳が無いのだと私は考えています. 私が夏の間の3か月の毎日を毎年ウミガメの調査で費やしているのは保護のためではありません. ただヒトが「何かウミガメの邪魔をしているんじゃないか?」という事をひとつでも多く拾い上げるために,母ウミガメの足跡からメッセージ,もしくは苦情を聞き取りたいとして続けているだけなのです. 今の段階の結果として,以前 ウミガメ会議で発表したような母ウミガメからのメッセージ(最下リンク「2015年日本ウミガメ会議inいちのみや藤田発表資料」をご覧ください) をヒトが分かりやすいように翻訳して伝えるという事を自分が死ぬまでに可能な限りヒトに伝えていきたいと願っています. そんなわけでこの7月は南房総としては多くの母ウミガメの足跡を記録できました. きっと,その中にも母ウミガメからのメッセージが沢山込められている事と思います. それを解読できるかが残された,かなり難しい仕事ではありますが. 今月もTwitterから拾い出して出来事をご紹介していきます! 1日 この日の出来事の詳細は省きますが,とにかく鳥獣保護管理法で(たいていの)生き物や,その卵を捕獲したり,殺すのは法律に触れるということをもっと広く知らせないとと思いました. 少なくとも南房総ではそれを知らない人が多すぎます. 知らずに罪を犯している人がいるのですから,それを十分に周知していない,もしくはそれを指導していない側の責任もあります. 役所が発注する公共工事でそれが行われている実態を知らなかったと言って,役所が毎年繰り返しているのは違法でしょう. 自然物を改変する時に十分な事前調査を行わなかった事で現場での作業を行う業者が生物を殺す違法行為を「知らずに」行っている事実がここにもあります. 同じように海岸環境に手を加える場合やビーチクリーンでも生き物の保護が最優先です. そもそも,このように「違法だから」と言わなくては生き物が護られない状況自体が異常でしょう. メディアで盛んに言われている環境問題に関わる新しいカタカナやアルファベットの略語が乱用される事で,むしろ情報を得る事,理解する事が苦手な人を置き去りにしてしまっている証拠ではないかと考えています. 本当はもっと目の前の,単純なはずのヒトに本来備わっている愛情や倫理で十分に自己判断出来るはずのことが出来なくなっている背景には様々な今の世の中の混乱を感じさせます. 繰り返しになりますが,海水浴場など海岸の利用にあたって事前環境影響評価が行われないというのはとても大きな問題だと思います. 2日 前回の水中でのイルカの鳴き声に続き,イルカの鳴き声を録音する際に録れていた海中の音を多く含めたロングバージョン(9分20秒)でアップしました. 自分の記録用でもありますが,睡眠誘導音としてもオススメ? 水中の不思議な音が本当に眠くなるんですが僕だけでしょうか? ご希望あれば2時間全編バージョンもアップしようかな…と(マニア向け?) 5日 この日の朝は150mも離れていないところで2か所ウミガメの上陸~産卵がありました. 今年はやはり順調な感じですが,産む場所が海に近すぎるケースが多めです. ちなみに卵保護のため場所は非公開とし,写真も分かりにくいように撮影してます. 7日 毎日調査の白浜エリアに加え,千倉-和田間の調査の日でした. ウミガメ上陸や漂着は無く,他にフラッグ付きシロチドリ発見,昨年発見のハマナタマメ×3の記録などを行いました. 7日 「がぶり」とマグロのような魚が齧られたままの半身が打ちあがっていました. サメでしょうか?シャチではないとも言い切れませんよね? シャチなら是非見たいです. 7日 この日の沖ノ島は静かで大変清らかでした. そんなお姿も秋まで拝めなくなります. 最近は沖ノ島に行くのにお金まで取るようになって... 30年位前の夏でも混みすぎていなくて穏やかな賑わいが良い感じだった沖ノ島が懐かしいです. どうしてこんなことになってしまったのでしょう. 沖ノ島はだれのものなんでしょう?(当然だれのものでもないですね) 10日 ウミガメの上陸産卵を確認しました. 今年はなんだかやけに順調です. 上陸が多いと嬉しいけれど,記録してる間の体力の消耗が結構あって大変...夏はまだ始まったばかりなのですが. 11日 昔たまたま録れた子ウミガメが海まで歩く姿の動画を久しぶりに観ましたが、また感動してしまいました。 子ガメの頑張る姿が最高ですので,是非観ていただきたいです! 海に帰るまでの困難がこれほど大変で,そして海に達してから始まる更に困難な日々を生き抜いて親になり,卵を産みに来る彼らの逞しさは感動的です. 11日 磯にいたクモですが緑の脚がとてもきれいでした. 複数の方からジョロウグモの幼体とと教えていただきました. 海辺にも様々な場所に様々なクモがいます. 12日 和田で起きたサーファーがイノシシに襲われた事故の現場の動画がネットに上がっていました. これを見れば良く分かりますが,他人事ではないです. 海岸といえども自然の中ですから周囲に注意を払う意識が大切と教えられます. 被害者のサーファーの方が心配です. 12日 そしてこの日,それらしき糞を平砂浦で見たので念のため,お伝えしておきました. 違うと良いのですが,ヒトや犬が絶対食べないような荒い繊維質が沢山含まれてました. 遠めの写真ですが糞ですので,一応センシティブ画像扱いにしておきました. 旧アクシオンの東500mほど. この辺りの海岸は海の中しか逃げるところないです. 和田の現場は7日にウミガメ産卵その他調査で,まさにここを通ったばかりなので,自分がそうなっていたかもという感じが全然普通に感じられました. あの歩道は自転車もOKなので使うんですが,鉢合わせたら咄嗟には逃げようがないです. 12日 白浜+平砂浦調査でした. ウミガメ産卵確認×1,ウミガメ漂着×3,モダマ(ヒメモダマ?)漂着など. 今日は涼しくて助かりました. 熱中症で野垂れ死にしてしまうという事が十分あり得る調査方法ですが,平砂浦では他に手がありません... モダマはウミガメの巣の様子を確認しようと進路を変えたら正面に落ちてました. ウミガメの調査で忙しい夏にはこういうものは探して見つけるという余裕はなく,ビーチコーミングはもともと好きですが,あくまで主体としている調査の一部,もしくはオマケで,しかし漂着しているものも重要な情報でもあるという感じです. でも,見つけた時にはやはり嬉しい. 抱卵の時期から見ているので,とても嬉しいです! が,複数の家族が入り混じるのでこの時期にはどの家族なのか分からなくなります. 13日 この日も海岸でELNAの田中さんに遭遇しました。 昨日自分が見つけ連絡したアオウミガメの漂着死骸の調査に来られたところでした。 混獲の事を説明するときに、このポッドキャストを紹介して下さっているとの事でした。 自分ももう少しマジメに話しておけば良かった... 再掲となりますが,改めて. まだお聴きになっていない方,是非聴いてみてください. 14日 本日,海浜植生内で見たシロスジコガネ♂が砂に潜る様子をアップしました. マニアックな動画となりましたが,海岸性のシロスジコガネの成体が日中にどうしているのか疑問でしたので,個人的には大発見!という感じです. シロスジコガネは数が減ってきていますが,南房総には場所によってまだ生息しています. これから先も南房総で生き続けてほしいと願っています. そのためには海岸線の光害を取り除く事が大切と感じています. ウミガメの繁殖でも問題となる要因ですから,何とかしていかなければならないものです. 個人ができる事としては海辺でキャンプをしたり車中泊をする場合,居住者であれば雨戸を閉めて光が漏れにくくする,販売機を設置する場合は夜間に光が消えるものにしてもらう等の対応ができますね. 19日 この日のウミガメ調査はなかなか激しい天気で土砂降り,突風と凄まじかったです! 雲は大迫力でした! しかしこんな日でもチドリたちは卵や雛を抱いてジッと頑張ってるんですからね.凄いですね. ちなみに先日土砂で埋められそうになってピンチだったコチドリの巣の卵は連休直前に孵化したらしく,連休初日には雛を連れて歩いていました. 今回もまたギリセーフでした! 19日 カヤック日記更新致しました. どうぞよろしくお願い致します! (写真はシロチドリを攻撃するコチドリ.小さいのに気が荒い….) ※20日,Bloggerの表記がおかしくなっていたので修正しました. 21日 千倉でウミガメ上陸痕跡が新たに見つかりました. 2回穴を掘って納得がいかず,もう少し先へ...と進んだら,そのまま川に入ってしまい,川から出てきて真っ直ぐに海に帰ってしまったという残念な足跡でした. ただ観察者の方は足跡の上にモダマが落ちていたのでラッキーでした. アツミモダマ? 21日 ポッドキャスト南房総海音日記に「2022年7月21日の千倉海岸の波音」をアップしました. 外海ならではの力を感じる波音です. この日にはウミガメの産卵上陸も確認できました. このような強い波の中を上陸して来るウミガメの姿を想像しながらきいてみてください. 23日 先日サーファーがイノシシに襲われた場所にウミガメ調査で行ったので,ご参考までに周辺の状況シェアしました. イノシシが川を下って来たのかは分かりませんが,川の様子なども. 24日 6月のカヤック日記をポッドキャスト「南房総海音日記」にアップしました. 今回は録音中に近くでハプニングなどもあり,それが音に反映されています. 「田舎の海辺あるある」な中での録音となりました.... 写真はシロチドリに攻撃をするコチドリです. コチドリは気性が荒く,かなり激しい攻撃なのでシロチドリはいつもたじたじなのです. 25日 昨日の館山湾からの夕焼けと富士山です. 26日 1955-56年にニュージーランドの海岸に棲みついてヒトと交流を持ったイルカのオポの時代といろいろ変わっていないですね. それぞれいろいろな思いがあるけれど,野生の生き物にも自由があるのだし. 実はイルカのオポが現れたニュージーランドの北島の北寄りにあるオポノニへ昔行ったことがあります. 南房総でイルカを観察し始めて間もなく,土地の人々の反応が気になったりした中で,このオポの話を知り,どんな場所でそういう事が起きたのか実際に行ってみたくなったという経緯です. オポノニに行った事で南房総でイルカが安心して暮らし続け,自分も観察する事を続ける為には,土地の人が感じているものとイルカを見に訪れる人の温度差を十分に理解する必要があることを実感できました. それぞれがイルカに対して持っているイメージや経験が大きく違うのですから,土地の人がイルカに対して持っているイメージのマイナスの部分を強めるか弱めるかが実はイルカを見に来る人々の対応次第だという事が分かりました. マップの辺りが主にオポとの交流があった場所らしく石像がありました. 素朴な田舎の観光地でした. 31日 本日発売の「kayak~海を旅する本」,藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」で誤字が見つかりました. 誤「海藻には大小さまざまなサイズに物が集まって」 正「海藻には大小さまざまなサイズのものが集まって」 今回はハマダンゴムシ編です. よろしくお願い致します! Kindle版もあります! お知らせ 「kayak~海を旅する本」Vol.77 発売中 店頭希望小売価格=840円(税込み) 藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は59「ハマダンゴムシ」編です. どうぞ宜しくお願い致します. ご購入はこちら 随時活動報告,南房総の海の風景をお伝えしております. 是非フォローお願いいたします! 運転をしながら,仕事で作業をしながら,音でブログを気楽に「読んで」頂けるようにポッドキャストでの配信を始めました. 文章では書ききれなかった事なども録音時に思い付きで加えてあります. その他に波音などの海辺の環境音,海に関わる人のお話しなどもご紹介しております. 是非お気軽にお試しください. |