2021年11月の出来事




写真:ギンカクラゲ(左)を摂餌し始めたアオミノウミウシ(右、上の個体の全長2㎝ほど)

今月も静かで地味な出来事がいろいろとありましたが、まずは最大のトピックとなった写真の奇妙な生き物をご紹介します。
アオミノウミウシといってウミウシ、更にはナメクジの仲間と言えます。
つまり殻を持たない貝ですが、海を遊泳する類の中に含まれていて、特にこのアオミノウミウシは水面に留まって活発な遊泳は行わず、ほぼプランクトン的に暮らしているとされています。
ただ正確に言うと水面を漂うものはニューストンという定義もあり、水中に潜航しないのであればこちらに属していると言えますが、生態が解明されていないだけで活発な遊泳や潜行を行う時期や時間帯、状況などがあったりしないのかな?と個人的には思っていますが、あのヒレでは遊泳力は無さそうですからやはりニューストンな生活形態なのでしょうね。
ちなみにプランクトンというと海の中に漂っている小さな生き物と思われている場合が多いのですが、定義としては水流に逆らえず流されて生きているものという事でクラゲのようなサイズでもプランクトンとなります。
さらに魚類や鯨類のように遊泳力が十分ににある生き物にはネクトンという言葉があり、底生性はベントスなど区切りが分かりづらい場合が多いですが水中での生活形態で分けられています。
その中でカヤッカーはどこに属するのかな?ということを考えるとなかなか面白いです。
海域や漕者の能力などいろいろな条件でネクトンにも成りえますし、漂流していってしまうプランクトンにもなってしまうと言えそうです。

写真:アオミノウミウシ生態撮影に用いた容器(幅10㎝ほど、味噌の入っていたもの)に砂浜に漂着していたものを撮影記録用に集めました。 写真にはアオミノウミウシ(黄色矢印)以外にヒメルリガイ(黄緑矢印、小さな泡状)、アサガオガイ(黄緑矢印、大きな泡状)、カツオノエボシ(赤矢印、風船状)、ギンカクラゲ(白矢印、円盤状)がいます。 ギンカクラゲはすぐにアオミノウミウシに捕食され始めました。 撮影後はリリース。

話が逸れました。 写真のアオミノウミウシは時化の日に海岸に大小多数打ちあがっていたものを容器に海水と共に入れて観察、撮影したものです。
このような状態で浮いているのですが、実はこの上面はお腹側だということで、我々の遊泳の仕方で考えると天地が逆さまになっている背泳ぎ状態なわけです。
背泳ぎが常態である利点は何なのか不思議ですが、彼らからすれは我々の方が不思議でしょうからね。
身体の構造から想像してみるとお腹側に浮力体となる組織があれば、自然とこの姿勢となるのかもしれません。
人間も浮力体となる肺がどちらかといえば腹側にあるのですから彼らと同じ姿勢の方が浮遊には適しているでしょう。
呼吸を行う為の口と鼻もそちら側にあるのですから。
実際、沖に流されて救援を待つ場合などの「ういてまて」※では仰向けで浮くことを推奨していますよね。
その姿はまさにアオミノウミウシです。
しかし遊泳をするネクトンの仲間入りをしようとすると腹を下にする必要が生じるのは推進力を得るために陸上で発達した器官が腹側にあるからというだけでしょう。
もしかすると仰向けに水面に浮きながら、帆のような大きなヒレを脚に発達させて風を推進力にして海面を自由に移動していた生物がいたかもしれないとか考えるのは楽しいですね。
ヒトもうまくすればそれで海にもっと進出していたかもしれませんし。
まあ、その代案としてカヤックが発明されたのでしょう。
※「ういてまて」を推奨している一般社団法人水難学会の田村祐司(東京海洋大准教授)先生は私を海洋大の講師に採用してくださった方だったりします。アオミノウミウシを是非お見せしたいです!

写真:似ても似つかない漂着していた時の状態。表面積を減らして乾燥を防ぎながら再度海に戻れる可能性を待っているようです。

で、また話が逸れました。
アオミノウミウシが打ちあがったのは20日午前でした。
海は時化ていて、最近話題の軽石が多めでしたが、その色合いなどから福徳岡ノ場産ではないなと思いながら、軽石の付着生物を観察していました。
大きな軽石にはエボシガイが多数付着していて、意外と大きなカニも暮らしています。
このカニは産卵に上がってくるウミガメに付着している場合もある浮遊物に寄生するオキナガレガニというカニです。
他にもウミケムシもいたりとなかなか観察のしがいのある素材でした。
私の先を歩いていたスタッフなおこ(藤田の女房ですが…)が見た事の無いものを見つけて教えてくれました。
色合いからアオミノウミウシではないか?と呼んでいます。
私もアオミノウミウシの現物はこの夏にほぼ干からびた死骸を数体見た事があるだけでしたが、インターネットでは写真を随分見ていました。
その存在を知ったのがいつだったのか思い出せないのですが、ビーチコーミング、もしくはウミガメ調査などでの海岸歩きでは常に遭遇したい生き物のトップクラスでしたので、今回の事は飛び上がらんばかりに興奮しました。
最初に見つかった個体は上の写真のように丸まっていて、僅かに動きがありモゾモゾとしていました。
周辺を探すといくつも見つかり、どれもがもぞもぞと動いていて生きていましたから、なおこに容器を取りに行ってもらって収集を続けました。
特に小さいものは見つけづらいので単体で漂着物の塊に紛れてしまえば気づくことが難しいと思います。
その色合いだけが頼りでしょう。

写真:ちびっ子たちが沢山いました。脇腹の生殖器はまだはっきりしていません。泡状のものはアサガオガイ科の浮袋。

容器の中に海水を入れて浮かべてみるとフリーズドライの食品がふやかされる時のように徐々に広がり、まさにアオミノウミウシ!という形になりました。
感激していて当初うまく撮影できていないものが多かったですが徐々に冷静になってできるだけいろいろ撮影しました。
サイズは大きくても数センチでしたので、肉眼で見て分かることはとても少なく、後でのパソコン画面での観察のことを考えればマクロで撮った写真は大切でした。
特に一緒に容器に入れたアオミノウミウシの食べ物であるギンカクラゲを食べているシーンは慎重に記録しました。
特に動画での撮影は大げさなようですが手が震えるようでした。
1時間ほどかけて撮影した後に容器にいたアオミノウミウシ、ギンカクラゲ、カツオノエボシ、ルリガイ、ヒメルリガイ、その他の不明生物はそのまま海に放して観察を終了しました。
その日にTwitterで投稿した動画は3500いいね、600リツイートを超えてアオミノウミウシへの興味が自分と同じように多くの人に強い関心を与えるのだと感じられました。
あの奇妙な姿、解っていない生態、遭遇頻度のことを考えれば納得です。

写真:仰向けでの浮遊と身体右側に備わっている生殖器と肛門の位置を示しています。

その後、しばらく記録した写真を精査することなく時間が過ぎて、このカヤック日記を更新するために写真整理をする中で再度じっくりとパソコン越しに観察を行ったところ、胴体の右脇腹といえるような位置に大きな穴のような黒い丸が、ある程度のサイズになったどの個体にも見つかることに気づきました。
最初は仲間に齧られたりしたんだろうか?と思ったような、少し突き出しつつ窪んでいる穴でした。
考えてみると多くのウミウシに見られる鰓が見つかりませんし、そこにあるという肛門も無いと気づいたので、その黒い大きな穴が肛門なのではないか?と思い、インターネットで検索してみましたが情報が出てきません。
日本語では情報が少ないのだろうと思い、学名のGlaucus atlanticusと肛門を英文にして検索してみると、いくつか情報が出てきました。
そして、その穴は肛門ではなく生殖器だということが判りました。
肛門は同じく胴体右側のやや後方に開口していましたが自分の写真ではあまり分かりませんでした。
あとでTwitterでのリツイートコメントを見ていて、その身体構造がナメクジと同じという事が分かりました。
あれほど身近で、うちには暖かな季節には毎日見ているような生物のそういう基本的な事も知らなかったという事にショックを受けてしまいました。
今まで何を見ていたのでしょう…。

写真:生殖器から産卵している状況も写っていました。

話を戻しますが、台湾での観察例の報告では生殖器から放出されている卵の写真がありました。
これももしかしたら自分が撮った写真の中に写っているかもしれないと思い、じっくりと一枚一枚確認してみたところ、いくつかの写真ではっきりと卵が写っていました。
体の脇から連なって小さく白い卵が産み出されている姿は本当に奇妙というか神秘的というか、とにかく肉眼では全く見えなかったものですから、今回もカメラの性能にとても助けられました。
昨年から海岸や海面のクモの記録を取るようになった必要から購入したマクロ性能に優れたカメラでしたが、この1年本当に様々なものを見せてくれていて、もっと早くに導入しておくべきだったと感じています。
この卵の写真もTwitterでは大変好評でした。
こういう面白い場面をほとんどタイムラグなしで世界中の多くの人々と共有できるという面白い時代です。
そこからまたいろいろな発展や興味の広がりが多くの人に起きるだろうと考えるとワクワクします。
アオミノウミウシの動画はシックスドーサルズのYouTubeにいくつかアップしてあります。
今回参考にしたページは最後にリンクを貼っておきますので是非ご覧ください。
恐らく次にアオミノウミウシに逢えるのはかなり先になると思います、もしくは今回の経験は一生に一度かもしれないと思っています。
こういう出逢いがあるから海に行くのはやめられないですね。
今回のカヤック日記はほとんどアオミノウミウシ特集みたいになってしまいましたが、それほど貴重な機会でしたので写真も多めにしてみました。
皆様の好奇心が深まると嬉しいです。
そして「まずは」で始めておきながら結局アオミノウミウシで文字数が十分すぎてしまったので、その他はTwitterの引用と写真でご紹介します。

写真:アオミノウミウシの背中にヒッチハイクしているような生物が写っていました。単に漂着時に付着しただけかもしれませんが。

1日
軽石は南房総では珍しくないんですが、凄く多いわけでもないという存在で、時々多くなります。
この日もいろいろなタイプがありましたが、普段あまり見かけない表面が滑らかなグレーの(写真2枚目)が結構あって、それが福徳岡ノ場からのでは?と思ったり。
→その後、12月に入って館山で打ちあがり始めた福徳岡ノ場のものと判断された軽石と比べてみて、この日の軽石は外観から違うところからのものと判断しました。
当日のTwitter投稿

4日
4月以来見つからなかった(そして夏は探しに行けてなかった)海の上のクモ発見できました。
先月も1日だけですがクモを探すために漕いだんですが見つかりませんでした。
その日はその他の虫も少なく。今日は2個体でした。
当日のTwitter投稿

5日
今日は内房で5月に見つけたグンバイヒルガオ群落の様子を見に行きました。
グンバイヒルガオは青々していて熱帯の植物なのに11月の東京湾で花も蕾もあって驚きました。
ツワブキの周辺にはクサグモが沢山巣を張っていて、なんと交尾を観察できました。
実際の現場では共食い?と思いましたが、2個体とも穏やかに動いていて、これはもしかして?と思いましたがパソコンで写真を見て確認、クモ研究者の馬場友希様にSNS上で確認していただきました。
クモの交尾(交接)は初めて観察しましたが、独特でとても興味深いですね。
種類も馬場様にクサグモではなく、コクサグモと教えて頂きました。
花にいたのはオオスガの類みたいで、夏が発生時期らしいですけど11月。
暖かい日でした。
当日のTwitter投稿

写真:アオミノウミウシと一緒に打ちあがっていた不明生物。色合いからアオミノウミウシの幼体だったり?と想像しましたが判明せず。情報求む。

13日
カヤックツアーで館山湾に錨泊中の日本丸を見学してきました。
相変わらず美しい船でした。
水面から見上げると大迫力なのです。
船舶が好きな方にもカヤックはお勧めですよ。
当日のTwitter投稿

16日
今月3日に館山の海岸で漂着していたウミスズメ類を山階鳥類研究所に送ってあり、同定結果をカンムリウミスズメとご連絡を頂きました。
死骸は標本として研究所に保管されます。
状態が悪い死骸で、羽の色なども分からない状態でしたので私ではウミスズメの仲間というところまでしか分かりませんでした。
こういう状態でのカンムリウミスズメの同定ポイントは嘴と思われましたが、今後のために確かめたく思い担当頂いた同研究所自然誌研究室の小林様から教えていただきました。
掲載もお許しいただいたので転載いたします。
「今回のはおっしゃる通りで、羽色で判断できなかったので、嘴で判断しました。死体だと嘴の色も変わっていってしまいますが、藤田さんから送ってもらった写真を参考に、死体もかろうじて嘴が灰色で上嘴のキールが黒色だったのでカンムリと判断しました。」
とのことでした。
千葉県では記録の少ないカンムリウミスズメの雛をカヤックで2006年と2015年の2度(計4羽)確認していて、いずれも館山市沿岸ということもあり特に興味を持っている鳥です。
うち2006年の観察例は同研究所の雑誌に報告を掲載していただいたこともありました。※
実際の姿もかなり愛らしいのでそういう点でも大好きなのですが、その生態と情報の少なさに惹かれます。
漂着死骸での知見も増やしたいと思っていますので、カンムリウミスズメらしき鳥が漂着していたら是非ご連絡ください。
※千葉県館山市沿岸で観察されたカンムリウミスズメの雛(PDFで読めます)
2度目のカンムリウミスズメの雛観察について書いた2015年5月のカヤック日記
当日のTwitter投稿

写真:スナハマハエトリなど海岸のクモの観察も続けています。写真は種類が判明していない小さなクモ。

18日
軽石が館山に漂着して話題になりはじめましたが、軽石自体は昔から普通に打ちあがっていたので、福徳岡ノ場のものと区別しないとあまり意味がないと思いました。
そして今回のことで、今までに日常的な漂着軽石が研究対象として着目されていなかったということがよく分かりました。
そこで試しにブログ「カヤック日記」で軽石の写真を取り上げた時のを拾い出してみました。
ただありふれた存在なので、特に多かったり大きいものが見つかった時にだけ取り上げているというかたちです。
2006年7月のカヤック日記
2012年6月のカヤック日記
2013年8月のカヤック日記
2015年9月のカヤック日記
2018年7月のカヤック日記
2019年8月のカヤック日記
2021年8月のカヤック日記
こうやって見てみると掲載は夏に多いことに気づきました。
たしかに漂着も夏に数が多いという傾向はあるかもしれないですが、私がウミガメ調査で外海に面した海岸に行く頻度が高まるということもあり、なんとも言えないです。
単純に南寄りの風により黒潮内に漂っているものが岸に寄りやすいのでしょう。
2018年の外房で見つけたサイズが50㎝の軽石には本当に驚きました。
持ち帰りたかったのですが1人ではほとんど動かせませんでした…。(それでも通常の石よりは遥かに軽い)
数日後に2人で行くと再漂流したらしく無くなっていました。
軽石が漂着するのは珍しいことではないけれど、今回の噴火での軽石がいつ南房総に到着するのかについてはとても興味があったので、調査によって福徳岡ノ場産が混じっていると確認されれば記念に取っておきたいと思っています。
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写真:この類は海面でも砂浜でも見かけるのでもっと知りたいのですが情報が得難いです。

19日
良い凪でしたので今月2回目の海の上のムシ、クモ探しに行ってきました。
昆虫はかなり増えました。
ハチ、カメムシ、アブラムシなどの仲間らしきものたち。
クモもしっかり歩いているのを2個体発見できました。
今回は探す範囲を少し広げてみました。
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20日
「軽石」加藤祐三 著を紹介。
2018年にこの本を買った時には軽石の本はこれが唯一で、しかも古本しか無かった(2009年発行)と思ったのですけど、この時に試しにネット販売を見たら新品が売ってました。
軽石騒ぎで再版でしょうか?
これに書いてあることを関係者が読んでいたら今になって慌てないで済んでたはずだと思うのですけど、今回はまるで活かされていない感じが残念です。
軽石に興味沸いた方にはおすすめの本です。
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20日
アオミノウミウシに出逢った日。
当日のTwitter投稿

21日
カヤックツアーでした。
開業間もない頃からのお客様と北条海岸-大房岬-沖ノ島-北条海岸の三角ルートでした。
途中、海面にクモを発見も、うまく撮影できなかったうえに手に取ることもできず。
ベタ凪でないとミリ単位のクモは撮影が困難です。
ツアー中でも遭遇した場合に捕獲用カップを次回以降は持参することに。
海上を漂っていた空き缶にはエボシガイのコドモたち。
海の上を漂うカヤックも彼らと似たようなものですね。
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写真:マウンテンバイクツアーのルートもどんどん開拓しています。写真の自転車のサイズに注目!

26日
外房方面でMTBツアー下見を兼ねてミサゴ、ハマナタマメ、グンバイヒルガオのポイントチェックしてきました。
台風で一旦は枯草状態になったハマナタマメ、漂着物にすっかり埋もれてしまったグンバイヒルガオも復活していました!
ミサゴを追って迷い込んだ田んぼではなぜか電車?が、不思議でした。
→コンテナを積む貨車の車掌さんが乗る場所だと複数の方から各SNS上で教えていただきました。ありがとうございました!
当日のTwitter投稿

30日
ベタ凪でしたので海の上の虫探し行ってきました。
クモは1個体だけであとはハエとハチがやけに多かったです。
風が強いわけでもないのに彼らが海に落ちるのは不思議です。
今回のクモは海の上で見つけるのは初めてのユウレイグモの仲間?
そして「臭うな?」と思ったら、近くの岩場にウミガメ死骸が漂着していたので、上陸して記録しておきました。
カヤックは大抵どこでも浮くことができるし、上陸場所も選ばず、こういう調査には最高に便利な乗り物と思います。
研究者にもっと活用していただきたいですので、研究で活用してみたい方はお気軽にご相談ください。
必要な道具、スキルなど私の経験上からアドバイスさせていただけますし、ツアーにご参加いただく形で実際にカヤックを経験していただけます。
当日のTwitter投稿

※アオミノウミウシの生態について参考にしたサイト
Natural History Museum 「Glaucus atlanticus (blue sea slug)」
Samantha Rose 「Glaucus Atlanticus and their behaviour」
台灣生物多樣性研究(TW J. of Biodivers.) 15(2): 149-154, 2013 149「First Record of Pelagic Aeolid Nudibranch Glaucus atlanticus Forster, 1777 (Gastropoda: Glaucidae) in the Intertidal Zone of SiaoLiouciou off Southwestern Taiwan Island 」Liu-chih Lo, Wen-jou Chen, Tien-cheng Wang and Chia-feng Chang (PDF)
Wikimedia commons 「File:Nudibranch on white background penis and anus.jpg」


お知らせ

アオミノウミウシの生態動画をYouTubeに3本アップしました。
是非ご覧ください。


アオミノウミウシ 2021年11月20日 館山市館山湾岸 その1


アオミノウミウシ 2021年11月20日 館山市館山湾岸 その2


アオミノウミウシ 2021年11月20日 館山市館山湾岸 その3




パタゴニア

 2021年10月の出来事


写真:空を見上げるには海の上ほど最適な場所はありません。

写真:空を見上げるには海の上ほど最適な場所はありません。


コロナ渦に突入して以来このページの更新が遅れ気味ですが、特に何か問題が発生しているわけではありませんので、どうぞご心配なく。
この数年TwitterとInstagramというSNSを利用するようになり、日々の活動報告はそちらで行えるようになり、活動状況をご報告するための媒体としての「カヤック日記」というブログ体裁のものの存在理由が今までと変わって来ていると感じています。
そもそもはWEBログですから、自身が日々起きたことを記録しておく場所というものでありながら、実際にはSNSの方がノートとしての記録場所として適している面もあります。
ただ文字数制限や載せられる写真の数に制限があったりという面ではブログの方がより多くの情報を残しておけますし、私自身も実際に過去の大雑把な記録を掘り返す時にカヤック日記は重宝していますので欠かせませんので、SNSがフィールドノートとするならば、カヤック日記はそれらを月単位でまとめた報告というような感じで使い分けたいと最近思い始めていました。
そんな中でコロナ渦に入り、ある意味での時間的な制限が実社会的にも変わってきているのを感じる中で、カヤック日記では毎月の出来事を当初月始の一日でやや慌ててまとめたものを掲載していたのですが、それよりも長期的に考えたらひと月の間に撮った写真やノートをじっくり再度観察するような目で見ながら時間をかけてこのページを残した方が後々には意味があるだろうという風に考えるようになってきた為、更新日を限定するのをやめました。
とは言っても先月起きた事の、ノートには書いていない記憶の中にある感覚的なものを忘れてしまうほど遅くては意味がないですし、何よりその月に書き終えなければ、また次の月がやって来るのですから月の真ん中までには更新しておきたいとは思っています。
しかしそう言いながら今回の更新は月中を過ぎてしまいましたが…。

写真:安定しているのでむしろ観察機会が少なかった内房某所のハマナタマメ群落はいつの間にか巨大(広大)化していました。鞘も多数確認。2019年の2度の巨大台風で他の植生が退けられた機会に勢力を拡大したようです。

写真:安定しているのでむしろ観察機会が少なかった内房某所のハマナタマメ群落はいつの間にか巨大(広大)化していました。鞘も多数確認。2019年の2度の巨大台風で他の植生が退けられた機会に勢力を拡大したようです。

10月はウミガメに関わる活動が月末締め切りの日本ウミガメ協議会への産卵上陸数と漂着情報の報告が済み、一区切りがつく感じが毎年なんとなく大晦日のようなだなと思います。
そして11月には気分的には新年になるわけで、活動のパターンがいろいろ変わり、ウミガメ調査のようなルーティンで狭い範囲での活動から不規則で広範囲な移動へという変化もあり、気分もずいぶん変わります。
そして毎日調査であるウミガメ調査での忙しさとはまた別の忙しい気分に切れ変わっていきます。
忙しいというほどではないのですが、頭の中では南房総のかなり広範囲にいろいろな継続的記録対象が散らばっている中で、ある程度定期的に状況を観察していけるように天候やツアーの日程などにも左右されながら無駄なく動けるように毎日頭の中ではやる事ががいっぱいだったりします。
今シーズンは特にグンバイヒルガオとハマナタマメの株が多く見つかった事でその対象が増えました。
それに加えて今年は海辺と海上のクモも観察するようになりました。
それぞれ他の観察のついででやれば簡単に済みそうだという感じがしますが、実際に作業を始めるとそれにかなり集中しますし数時間はあっという間に経ってしまいます。
そして秋は陽が短い…。

写真:一方、台風16号で激しく波を被り続けた結果枯草の束と化してしまった外房某所ハマナタマメ。これでもまだ生きていますので観察を続けていますが、やや復活の兆しがあります。7月のカヤック日記に写真がありますので比べてみてください。

写真:一方、台風16号で激しく波を被り続けた結果枯草の束と化してしまった外房某所ハマナタマメ。これでもまだ生きていますので観察を続けていますが、やや復活の兆しがあります。 7月のカヤック日記に写真がありますので比べてみてください。

というような今年の状況もある意味ではコロナの影響だったりします。
夏季にツアーが思うようにできなかった事で時間ができ、もともと南房総という居住している地域での活動ですから、その点では比較的気兼ねなく活動は継続できましたので、いろいろと観察記録は増えました。
その観察を活かすためには継続的にそれらの場所に通い始めるので、それらがかなり広範囲に高密度にありますので、一人でやっているとかなりの活動量になりました。
ちょっと大変ですが、今後のための情報的貯蓄と考えるとガイド業という仕事にはかなり貴重な情報を得られる機会となっています。
コロナ渦が運良く今年度で終了したとするとしても、続いてしまうのだとしても、いずれにしても南房総という狭い範囲での自然の記録を更に濃密に記録していく基盤が整ってきたような気がしています。
あとは私の処理能力の方の問題が残されていますが…。

写真:ハマボウフウを摂餌中のキアゲハの幼虫。

写真:ハマボウフウを摂餌中のキアゲハの幼虫。

そんなわけで、全ての記録ではないですが公開しやすい内容のものを今回もTwitterとフィールドノートから引用して10月まとめをしておきます。

4日
内房某所でハマボウフウにキアゲハの幼虫を見つけました。
30日にも同海岸の別の群落で発見(写真上)し、意外と生息場所として安定しているのかもしれません。
セリ科が食草なので、いても不思議はないのですが台風の日はどうしていたのかな?と思いました。
以前、グンバイヒルガオを食べていたエビガラスズメというガの幼虫は砂の中から顔を出して葉を食べていて、恐らく時化の日には砂中に隠れて凌ぐのだと思いますがキアゲハはどうしてるのでしょう?

9日
カヤックツアーでしたが空模様が予想以上に凄かったです。
晴れて、土砂降り、やんで、降って、吹いてきて、土砂降り、やんで、降って、晴れて、暑くなって…目が回るけど、面白くもありました。
濡れる前提の格好でカヤックに乗って海の上にいると雨が楽しいんです。
不思議ですよね。
子供の頃に雨も気にせず遊んだ記憶が蘇る感じでしょうか。

写真:動きが速く写真がうまく取れずにノートの上で撮影したオカヤドカリ。

写真:動きが速く写真がうまく取れずにノートの上で撮影したオカヤドカリ。

10日-11日
夏の間ほったらかしだったスナビキソウを一斉チェックしました。
どこも台風の影響は思ったよりも少なかったですが海岸の様子が夏の間に人為的に変わり果てた場所もあり、またその先の事も気になり、複雑な心境です。

15日
夏に観察を欠かしていた東京湾岸某スナビキソウ群を記録しに行くとオカヤドカリを発見しました。
今年は大小見つかって普通になってきた感じですが、東京湾内での確認は今回初めてでした。
東京湾岸最大と思われるここのスナビキソウ群落は問題なし、元気でした。

20日
虹製造機を発見
きれいでしたのでYouTubeでアップしておきました。


23日
強風でカヤックツアーは中止となりMTBツアーに変更して頂きました。
出来るだけ風の弱い暖かな海岸線を選んで隆起海食崖の滝、伊豆諸島全望の見晴台そして青空の海を眺める一日でした。
海辺を「漕ぐ」のはカヤックと一緒ということに気付いていただけると思います。
水と陸の境のどちら側を漕ぐかの違いだけで見えてくるものが変わって、結果としてシーカヤックを漕ぐ時の視点が広がります。
そして海食崖の滝のように昔の海岸線を「漕ぐ」という想像体験をしてみると時間を超えてしまうという体験でもあったりします。
1~4人までの少人数ツアーですので、貝殻拾い主体などアレンジも可能ですので、お気軽にご希望ください。

24日
シーカヤックツアーで館山湾でした。
久しぶりのベタ凪、素晴らしい天候、海況に恵まれました。
暑くもなく寒くもなく、空には秋らしい様々な雲が浮かんでいました。
近年、荒天頻度が高まっており、ツアーも中止の割合が増えています。
しかし、それもこれもこの時代を漕いだ記憶になるでしょう。

26日
今月末締切の日本ウミガメ協議会への報告を今年も行いました。
昨年11月から今日までに確認したウミガメの死骸漂着29件を報告します。
産卵上陸数はたった3回でした。
全て卵を産んであると思われる痕跡ですが子ガメの孵化脱出は確認できず。
ウミガメに関しては大変悲しいシーズンでした。
今年が最後かもしれないという危惧を感じています。

写真:久しぶりに拾ったモダマ。表面に生物の痕跡は海での長い漂流の記憶。ウズマキゴカイの棲管のようです。

写真:久しぶりに拾ったモダマ。表面に生物の痕跡は海での長い漂流の記憶。ウズマキゴカイの棲管のようです。

29日
時化の中、近所の海岸で久しぶりにモダマを拾いました。
調べてみるとワニグチモダマとのこと。
熱帯の島から黒潮に乗って、ちょっと寒くなった南房総へ辿り着いたのですね。
もうひとつはこの夏に2回見つけたアカギカメムシを再び発見しました。
今回のは模様がほとんどなく明るい色合いで、肩の両脇に鋭い棘のあるタイプでした。
いずれも熱帯からやって来たとのことで、発芽も越冬もできません。
生き物は人間には無駄にしか見えない拡散を絶えず繰り返す事で環境の変化に対応して分布を広げられるチャンスを逃さないようにしているのですね。
アカギカメムシはかろうじて生きていました。

30日
Kayak誌vol.74(2021年秋号)発売しました。
6DORSALS藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は56回「自分も海だった」編です。
ご購入は最下に掲載のリンクからお願いいたします。

そういえば噴火後に南房総への軽石漂着時期を想定してみたツイートをしていましたが、まず北大東島に、そして南西諸島、その後黒潮に乗って昨日(11/15)の海上保安庁より伊豆諸島近海での軽石漂流報告がされていて、予想通り今年中に南房総に漂着が起きそうです。
ただ11月に入って既に今まであまり見なかったタイプの軽石がいくらか見られるようになっていますので、それらが福徳岡ノ場産の軽石かもしれません。
今後軽石群本体が寄れば確認できるでしょう。
楽しみなような心配なような…。
しかし軽石は海底噴火など含め太古から断続的に供給されてきた自然物ですから一時的に生物の死がある程度広がったとしても長い目で見れば自然環境への影響は問題ないでしょう。
問題となるのはそれに順応できていない近代文明だけという事になりそうです。
8/19のツイート

写真:最近人気の富浦の桟橋。折角なのですからこの機会に観光用の小型遊覧船でも着けて実用的に用いてみるのも良さそうだと思いますが。

写真:最近人気の富浦の桟橋。折角なのですからこの機会に観光用の小型遊覧船でも着けて実用的に用いてみるのも良さそうだと思いますが。



お知らせ


「kayak~海を旅する本」Vol.74 発売中
店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は56「自分も海だった」編です。
どうぞ宜しくお願い致します。
購入御希望の方は写真をクリックしてください。

6DORSALSのSNSリンク
随時活動報告、南房総の海の風景をお伝えしております。
是非フォローお願いいたします!



パタゴニア

2021年9月の出来事

写真:30日、館山湾の塩見に寄せた台風16号の波。

今月も台風が通過しました。
16号は最低気圧920hpaと勢力が強く、房総半島の太平洋岸を掠める時点でも960hpa弱と気圧が低かった為、そこそこの高潮となりました。
最接近したのは10月1日でしたが、それまでにかなり高い波が南西方向から供給され続けていて9月のうちはむしろ内房の方が波の影響が大きくなっていました。
今シーズンたった3か所だったウミガメの巣は既に孵化の時期を過ぎて子亀の脱出痕跡が確認できていませんでした。
そんな中、11日には白浜の海岸線にウミガメの卵が漂着していました。
6月23日に産卵された巣から流出したと考えられる位置で、丸のままのもの×25、割れ×4もありました。
9月に入ってから途端に気温が下がり雨の日が続き、ちょっと異常な続き方でしたが、そのために海岸に流れ込む川の水の量が安定的に増したために流れの幅が広がり、産卵時には水の流れのなかった巣の位置が水流により削られた結果、巣が掘り起こされて流出した後に波で漂着したようです。
6月23日の産卵ですから無事に孵化すれば8月半ばには子亀が海に帰っているはずですが、8月は毎日通っているにもかかわらず、その様子が見られませんでした。
近年は孵化率調査を行っていないため巣内の状態は確認していませんでした。
今回たまたまこういう形で卵の中身を確認しましたが、ほとんどは発生が起きていなかった様子でした。
ただし割れた殻もあり孵化して割れた可能性のあるものと砂の中にいる小さな生き物に食害された結果割れたものがあるようでした。
孵化していた殻は浮力が少ないので漂着が少なかったと考えられます。


写真:11日に打ちあがっていたウミガメの卵。この後割って中の状態を確認しました。

今回のように毎日通っていて脱出が確認できなかった場合で、孵化で割れた卵があったとすると、巣内では子亀が孵化していながら何かしらの理由で砂の表面に出て来る事が出来なかったという可能性があります。
この巣は8月の2回の台風の際には大雨でしたし、波をいくらか被っていますので、それによって砂が固く締まっていたので関係あるかもしれません。
そういう場合に巣内で孵化しながら出られずにいた子亀が今回のような増水や高潮で巣が破壊されることでたまたま運良く海に帰ることができたという事例はあるのかもしれないと考えています。
また私が孵化率調査をやめた理由もこれに関連していて、孵化率調査は十分に時間を置いて産卵後3か月経ってから行っていましたが、それでも巣内から瀕死の子亀が見つかる事例が多々あったのです。
それを人為的に海に帰してもほとんどの個体は衰弱していて場合によってはヒレなどの形が長期間狭い砂の中にいたためでしょうか変形していてまっすぐに歩けないような個体も多く、それらを海に帰すことが正しい判断とは思えず、しかし生存している以上はどうにかしなければならないという大変難しい判断が繰り返された結果、孵化率調査を行わず、自然に任せるということにしたのでした。
巣内で死んでいく子亀がかわいそうと思われる場合もあると思いますが、それ以前に例えば波の被るような位置に産卵した問題である光害などについて考えることが大切だと思います。
また私のウミガメ調査の指導をして下さった故秋山章男先生の考えとして、うまく繁殖をできない遺伝を持った母亀の子が人の手によって自然に帰ることによりむしろ健全な個体に圧力をかける結果、種全体としては悪い方向へ向かう手助けを人がしてしまうことになりかねないという事がありました。


写真:7月14日産卵のウミガメ巣のある砂丘前面。

ところで今シーズンはウミガメの上陸痕跡が7月までに3か所しか見つからなかったというところまではお伝えしていたのですが、それ以降の状況をまとめて書いていませんでした。
なんと8月は一度も上陸が見つからず、最終的に3か所で終了してしまいました。
これはかなり異常な状況で、来年以降が心配です。
南房総で最後に確認されたウミガメの産卵を記録するという残念な日が近づいているのではないかという気がしています。
それで例年ですとウミガメ毎日調査が終了する8月のカヤック日記に総数などの報告を書いていましたが、来なかったということも書かずにいたので南房総のウミガメが気になっている方には心配頂いたかもしれません。
数少ない巣でしたが、さらにそれぞれが先に書いた流出も含め、大きく時期が過ぎていながら孵化脱出が確認できていません。
ただし館山市平砂浦の巣だけはアクセスが悪いため観察に通う頻度が低く、また砂が柔らかく風が吹くとすぐに痕跡が消えてしまうために確認ができなかっただけという可能性もあります。

最も期待していた7月14日に産卵された白浜の巣はかなり条件がよく、水捌けもよい斜面にあり、光も見えず、波は一度も届かなかったという巣ですが、これは高頻度で観察に出かけましたが脱出が確認できませんでした。
上陸時に母亀が随分と悩んだ末に産卵した様子でしたが、何か不具合があったのでしょうか。
条件が良く問題も観察されなかった状態で子亀が出てこなかった理由を知りたいと思っていて、もしかしたらここだけは久しぶりに孵化率を調べるかもしれません。
というわけで今シーズンは子亀が海に帰ったというお知らせはありませんでした。
今月末までに提出する日本ウミガメ協議会への報告も寂しいものとなります。
                                                        

写真:7月30日に発見し観察を続けていたハマナタマメに鞘発見。

25日には館山湾に面する自宅近くの海岸でスタッフのなおこが生きたルリガイを発見し海水を入れた容器に入れて持ち帰ってきました。
ルリガイは南房総に住んで年中海辺を見ていれば意外と高い頻度で漂着しますので珍しいとは言えませんが、大抵は乾燥していたり、貝の本体である軟体部は死んでいます。
今回それが漂着間もなく生きていたという点ではとても珍しいと言えます。
同時に多数打ちあがっていたギンカクラゲ、いくつかのカツオノエボシが見られましたが、それらがルリガイの食べ物です。
ギンカクラゲもいくつか生きていましたので、同じ容器に入れて貴重な採餌場面を観察しました。
最初は弱っていたためかギンカクラゲをルリガイに寄せても反応を示しませんでしたが、しばらくその様子を見ていると急に反応し始め、間もなく口吻を伸ばしギンカクラゲの触手状の部位を食べ始めました。
ルリガイには僅かな遊泳能力があるんじゃないか?という期待のような予想は裏切られ、ほんの数ミリも移動できず目の前のギンカクラゲに口が届かないという様子がまず観察できました。
実際の海の上ではかなりの密度で餌生物が浮いていないとまず捕獲できないのだと分かりました。


写真:泡状の浮力体で海面に浮遊しながら暮らすルリガイ(左)と同じく海面を漂って暮らすギンカクラゲ。ルリガイがギンカクラゲを捕まえているのが分かります。

ただし口吻と書いたように、その口は伸縮が可能でした。
その形状から吸い込みが可能なのかな?と一瞬思いましたが、そうではなく口を開けた状態で吻を伸ばし噛り付くという感じでした。
また一本ずつ口に入れるだけでなく器用に続けていくつも頬張るように食べていたのも印象的でした。
また口でまず餌を捕まえた後、引き寄せながら足を使って餌が離れないように捕まえることも分かりました。
一旦その足で捕まえたエサはなかなか離れることがなく、大時化の海面でも対応できそうな保持能力でした。
滅多に餌にはありつけないけれど捕まえた場合には絶対に離さないという感じでした。
ただそれほど沢山食べるわけではないようで数時間後に見てみると、餌から離れて浮いていました。
この日は気温が夕方に急に下がったために容器の水温は海の水温よりもかなり低かったので急速に弱ったという可能性もあります。
そしてその次の日の朝にはあれほど活発な採餌を行っていた個体が死んでしまっていました。
当日のうちに海に帰してあげるべきでした。


写真:ルリガイが排出する紫の液体。

捕食されていたギンカクラゲを見ると触手だけでなく上部の円盤状の部位の縁も欠損していて、よく漂着したギンカクラゲで見かけていたこの欠損がルリガイによる捕食の痕跡だということが確認できました。
また打ちあがったルリガイでも見られる刺激を受けた場合に排出する紫色の液体が水中でどのような状態になるのかも確認できました。
流れのある実際の海であればこれが広がって煙幕のような効果を上げるのかもしれないと考えました。
このような紫色の液体を出す貝というとアメフラシの仲間が思い出されますが、ルリガイは意外と近い仲間なのでしょうか?
今回の観察はできるだけ動画で記録しましたのでYouTubeでいくつかアップしてあります。
最後に貼っておきますので是非ご覧ください。
ルリガイの殻の美しさはもちろん素晴らしいですが、その生きている姿も大変興味深いものでした。
これからは海岸でルリガイの殻を拾う時には彼らの海の上での生活を想像できそうです。


写真:4年7か月後に直線12㎞離れた位置で確認のミサゴ。

今月の出来事

5日
八幡海岸にてウミガメ漂着の情報頂き現地確認。アオウミガメ甲長93㎝、甲羅が左右に割れており胃内容と思われる海藻が散乱。(写真)

11日
前記した南房総市白浜のウミガメ巣からの流出卵漂着。
当日のTwitter投稿

16日
南房総市東京湾岸でグンバイヒルガオ株(1.6×0.7m)、ハマナタマメ小群落(3.2×3.4m)発見。
当日のTwitter投稿

17日
台風10号、9号により被波した南房総市南岸のグンバイヒルガオ(6/14発見)がほぼ復活を確認。
南房総市南岸でグンバイヒルガオの発芽発見。

21日
南房総市東岸でグンバイヒルガオ発芽発見。
南房総市東岸のハマナタマメその1(7/30発見)に鞘×1確認。
南房総市東岸でグンバイヒルガオ群落(14.2×9m)発見。
当日のTwitter投稿

22日
南房総市南岸で撮影したミサゴを個体識別により2017年の2月に山越えで12㎞の位置で記録した個体と同一と判断。ミサゴシーズン入り。
当日のTwitter投稿

25日 自宅近くの海岸でスタッフなおこが生存ルリガイを発見し、同時に漂着していたギンカクラゲの捕食~摂餌場面を容器内で観察に成功。
当日のTwitter投稿











パタゴニア

 2021年8月の出来事


写真:台風接近の日に雲を纏った富士山とサーファーたち。

今回も今月の主な出来事をフィールドノートから抜き出しながら書いてみます。(その日のTwitterや関連リンクも貼っておきます)

2日
ネコノシタにスナハマハエトリを発見。
花が咲いておりハエの類も見られたので採餌の為の滞在と考えられました。
夏の間、スナハマハエトリが何度まで行動可能なのかが分かればと思い携帯している温度計で計測したところ気温29℃。
しかし夏も半ばになって計測している人間の方が暑さに耐えきれず記録を大幅に省く事態に…。

2日
白浜で海浜植生混群内に新たにグンバイヒルガオ発見。
1×1mほどのサイズ。

6日
6/14発見の白浜のグンバイヒルガオはこれまで台風の高潮などの影響は無く無事に育っていましたが、8日に房総半島に接近予定の台風10号により被波すると思われるので現時点でのサイズ記録。
14×6mほど。
最も海側の弦先端は高潮線に1m弱まで接近。

写真:中央暗い部分は台風10号の雲。右下は伊豆大島。

6日
平砂浦でのウミガメ調査中、南方に台風の雲塊。
帰宅後に衛星画像で確認し、台風10号の雲と確認。
この時点での台風の位置は九州の南、北緯27.4東経133.0辺りと撮影位置から遥か1100㎞ほども離れていましたが衛星画像で確認してみると周辺に紛らわしい雲もなく間違いなく台風の姿でした。
台風の全体像がこれほどはっきり見えたのは初めてでした。
こういう姿を実際に見た後に2日後でしたが台風そのものの中に自分が入ってみると、おかしなもので「遥々良く来たね」という気分で、あまり嫌なものという感じがありませんでした。
姿を見たことで親しみを感じたのかもしれないなと自己分析してみたりしました。
しかし実際には茂原市や勝浦市など県内11市町に警戒レベル4相当の「県土砂災害警戒情報」が発表されたり土砂災害がありましたので、やはり恐ろしいですが普通はその姿が見えないことで台風など気象に対する想像力が湧きにくい事が自身の身を守る対応に結び付きにくいのかもしれないなという感じがしました。
今回、衛星からのつまりモニタ越しの画像ではなく生の台風の姿を事前に見られた事で現実味があり、落ち着いて待ち受ける気持ちが自然に沸いてきたという感じがしました。
ただ考えてみれば我々海に関わる者は先にうねりが到達するなどの先触れを普段からよく目にして判断している方だとは思いますが、それでもそのものの姿というのは何か違うものを感じるなという印象でした。

8日
台風10号接近により大雨。
ウミガメ調査今季2回目のお休み。

9日
台風10号による高潮被波で6/14発見の白浜グンバイヒルガオは半分が被波し、一部枯死。

9日
6/23白浜ウミガメが台風10号による高潮で被波。
流出は免れた様子。

9日
台風10号による高潮被波で7/24発見の白浜ハマナタマメ消失。

写真:写真:7月7日に発見し毎日通過しながら見て愛着の湧いていたハマナタマメの美しい株も台風9号の影響で枯死。上は9日撮影10号を免れた姿、下は11日撮影9号の波を受けた姿。

10日
九州、四国を通過して岡山県で温帯低気圧になった台風9号がその後も荒天を持続し、房総半島も進路の東側であった為に南の風をもろに受け、海がかなり荒れた事で海岸では10号以上の影響が出ました。
今季3日目の調査休み。

11日
10号で半分被波した6/14発見の白浜グンバイヒルガオは台風9号低気圧では全体で被波し、ほとんど砂で埋没も青い葉の一部は砂から出ている。
再起できる?

11日
台風9号低気圧による波で6/25発見の白浜ハマナタマメ消失。

11日
台風9号低気圧による波で7/7発見の白浜ハマナタマメ枯死。

11日
台風9号低気圧による波で7/8発見の白浜ハマナタマメ消失。

11日
台風9号低気圧による波で7/24発見の白浜ハマナタマメ消失。


写真:ハマナタマメで吸蜜するウラナミシジミ。蜜へのアクセスが難しそうですね。

14日
館山市浜田アオウミガメ死骸漂着。
甲長42㎝。

18日
東岸ハマナタマメ群にウラナミシジミ訪花吸蜜。風で飛ばされても繰り返し戻って来る。

21日
気温31℃でスナハマハエトリが活発に探餌。

23日
7/9発見の平砂浦ハマナタマメ消失確認。
台風の為と考えられる。

23日
グンバイヒルガオの花弁にスナハマハエトリ。
体に花粉が付着していてクモによる送粉について考えた。
花の上でハエを待つ機会の多いスナハマハエトリは海岸性植物の貴重な送粉者となっているのでは?

写真:グンバイヒルガオの鮮やかな花弁とスナハマハエトリ。上記Twitterに花粉の写った拡大写真あります。

27日
南房総市東岸でアカギカメムシの死骸漂着確認。
私は初めて遭遇したのですが、どこか見覚えがあり、調べると元々は南西諸島以南の分布だったものが最近になって北上していて北海道でも見つかったりしてる少し話題のカメムシでした。

27日
7/30グンバイヒルガオで開花確認。

27日
前回18日に続き、今回も東岸ハマナタマメ群にウラナミシジミ訪花吸蜜。
今回は3群それぞれに×1頭確認。

31日
南房総市白浜の潮間帯にオカヤドカリの幼体が×3も同じ場所に。
なぜ群れているのかがとても不思議であった。
Wikipediaに「メガロパ幼生は幼体への変態に先立ち適合する巻き貝の貝殻に潜りこんで上陸し、以後は陸上生活をする」と書いてあり、幼体になってまさに上陸したところ?と想像も集合は不可解。
メガロパの時に集合するのか?でもどうやって呼び合うのか?なんのために集まるのか?いろいろ不思議でした。

写真:小さなオカヤドカリたち。

31日
南房総市白浜でスナホリガニの死骸。

31日
27日に初めて遭遇したばかりのアカギカメムシの死骸に南房総市白浜で再び遭遇。
今回の個体は肩左右に突き出す鋭利な突起が無いタイプで色も薄い。

31日
台風10と9で波を被り縮小した6/14発見の白浜グンバイヒルガオは砂の中から青々と葉が顔を出し少しずつ弦も伸ばしはじめ、再起確実。

31日
同じく台風の影響を受けた6/23産卵のウミガメ巣は子ガメの孵化脱出は確認できていない。

31日
これまでに台風や人為の影響なく無事を確認は以下。
6/28発見の南房総市東岸のハマナタマメ×2。
7/14産卵のウミガメ巣。
7/30発見の南房総市東岸のハマナタマメ。
7/30発見の南房総市東岸のグンバイヒルガオ。
8/2発見の白浜グンバイヒルガオ。

写真:台風の影響を受ける前のX字に広がった白浜のグンバイヒルガオ。

今回、台風の影響を受けた館山市、南房総市白浜のハマナタマメは全滅したわけですが、毎年このように台風の影響で多くのハマナタマメが群落となることなく消えていっている様子が十分観察できました。
同じく漂着種子で分布を広げるグンバイヒルガオと同条件で対比できたのも良かったです。
漂着した種子が台風での高波の影響を受けずに夏の間に十分な高さまで弦を伸ばし、他の植生群の縁辺りに群落を形成するのがいかに難しいかがよく分かりました。
そもそも漂着して分布を広げるというのは矛盾があって、「波で運ばれ」ておきながら、「波で枯れる」ということへの工夫と運が良くなければなりません。(正に運ですね)
種子は少しでも早い時期に発芽して、台風のシーズンまでに台風波も届かない位置まで弦を伸ばし逃げ切れるかは大切で、その点グンバイヒルガオは成長が早く、しかも波を被っても枯れにくく、一方ハマナタマメは潮に弱い上に成長ものんびりでした。
また異常な高い波を伴った大型の台風は通常の台風などでは決して波が届かない位置に種子を置いて行ってくれるという植物にとっては大きな恩恵があることがわかります。
南房総市東岸で今年見つかった堤防の高い位置に発芽したハマナタマメなどは以前の異常な高さの波を伴った台風により種子がそこに置かれたと考えられます。
しかも、その際にはその種子が置かれていった場所の他の植生の多くは、その波により一掃されるので、その時に置かれた種子にはとても優位な条件が用意されていることになります。
しかし広く見ると、同じその波で同種の大きな群落なども一掃されている可能性が高く、種全体では得なのか損なのか分かりにくいですが、そういう状況でも子孫が繋がるために仕込まれた、なかんかシブトイ仕組みだなと感じます。

写真:19日、浮石がやや多めで小笠原、福徳岡ノ場での噴火を想う。


パタゴニア

2021年7月の出来事

写真:先月発見しご紹介したハマナタマメ。こんな場所で良かったのだろうか。場所を選べない植物の生き方。それでもどんどん大きくなっています。

今月の主な出来事をフィールドノートから抜き出しながら書いてみます。(その日のTwitterや関連リンクも貼っておきます)

3日 大雨につき調査休み(熱海の伊豆山土砂災害の日)

海岸は大雨で危険な場所は河口近くだけなのですが、白浜の海岸に行くまでの区間で2019年の台風以来大量の木が倒れて土砂崩れの危険が高まっている場所があり、それを恐れていて調査を休みました。
そして家にいて見たニュースが熱海の痛ましい事故でした。
被害者の方々のご冥福をお祈りします。
熱海に限らず問題のある土地は日本中、世界中に沢山あるはずです。
元々は良い場所だったところでも台風など大きな災害の後に状況が変わったという場所も多いはずです。
どこに住んでもなんらかの危険はあるといえます。
自分が住むところにはどんな危険が潜んでいるのかを考えながら暮らして自分の身を守るという気持ちが必要になっている、もしくは忘れられてきていると思いました。

シーカヤッキングでは常にそういう自分の生命に関して自分が責任を持つ覚悟を必要とします。
登山であれば初心者向けのルートなど、ある程度のレベル分けがされていますから、自分に合った条件の場所で楽しむための選択がしやすくなっています。
しかしシーカヤッキングは同じルートでも風、潮、波、水温、気温といった不安定な条件に囲まれて行いますから、ある日には初心者向けでも別の日にはベテランでも判断の難しい条件になったりと、それはもちろん山でも多少はそうなのですが、海はあまりにその変化の差が大きく変化の速度も早いので、常に状況を把握して対処しているという行為です。
そう考えるとまず「海に出るのか出ないのか」が最も大切な判断だったりします。
そういう状況を調べて、実際に自分で観て、判断し、行動するという癖がついてくるとシーカヤッキングでの「ヒヤリハット」のような事は減っていくと思います。
そして、それらがシーカヤッキング時の感覚や癖、習慣となり、今度は生活の全般にそれを適用するようになっていくように思います。
それがアウトドアやシーカヤッキングという類の「遊び」をする本当の目的だったと分かってしまうと、「シーカヤッキング=生き方」だという結論に至り、シーカヤックを漕いで海に出る時のようにすべての小さな判断が自分の生死に関わっているという、「ちょっと大袈裟じゃないの?」というような事が自然になってくると思います。
そうなってしまえば家をどこに建てて住むのかということを考えるのも、シーカヤックでどこから漕ぎだすのかを考える時と同じような、もしくは今夜のキャンプ地にする海岸をどこにしようか?というような判断にも似て生きていること全てがアウトドアになっていくと思います。
だから、生き方の基本を知り始める時代である若い時には特にアウトドアを経験することは大切だと思います。
もちろん、その時代を通り越しているとしても遅くはないと思います。

写真:崖にスズメバチの大きな巣。巣の下には2009年にこの窪みでハヤブサが営巣した際のベット材の小枝が残っています。生き物の住処選びは大変慎重です。

生きていくときに自分に訪れるリスクやトラブルに自分で考えて対処する、「生きてる限りリスクは当然あるもの」(死んだら多分リスクはなくなります)という前提でそれにどう対処して生きていくのかを常に考える、それを楽しむことがアウトドアなのですから、生きていく上でのリスク回避や状況判断さえも楽しんで生きていくという強さがきっと少しは身につくと思います。
少なくともアウトドアでの活動は死ぬ可能性のある行為を楽しくやっているので、死は特別な時にやってくるものではなくて、いつもそこにあるもので、それとうまく付き合っていくという事がアウトドアの適度なスリルであり、それをクリアした時の達成感でもあるのですから。
と言いながらシーカヤックのガイドをしている私自身が弱く自分の人生を完璧に制御しきれていないのは第三者から見ても一目で分かることなのですから、あなたがツアーに参加した時にシーカヤックを漕いでいる時のガイドの判断がすべて完璧だろうと考えるのは問題です。
ガイドも所詮人間ですし、私はともあれ、どれだけの経験を持っているガイドでも知らないことが沢山あります。
すべて経験している人はいません。(すべてを経験しつつあったなら、そのガイドはもう死んでいると思います)
そう考えてみたらいろいろな世界の専門家の言うことを、そのまま受け取った結果で自分が死んだ時のことを想像できます。
例えば「家を建てるのはここが最高です!」と。(他にもいろいろありますね)

写真:ハマヒョウタンゴミムシダマシに吻を差し込んで吸汁しているヒメオオメカメムシ。ヒト以外では生きていればいつでも捕食されるリスクがあります。

だから自然の中を案内するガイドはシーカヤックに限らず、十分な余裕を持たせて、本当ならもう少し攻めていけるかもしれないけれど、しかし営業的なガイドサービスでのリスク回避の限界という面を理解する感覚もガイドには必要で、その線を保っているはずです。
ということは本当はもっと自分(お客さんの方です)は行けるかもしれないのに、ガイドがその先を抑え抑えでやっているために本当の上達ができないのかもしれないと考えてもよいと思います。
私はそれは本当にあることだと思いますし、どこまでも上達したいという人にとっては損だと思います。
私自身もほとんど一人で漕いできたのはその為もあって、だれにも迷惑をかけずにできるところまで、自分が求めるスタイルでの必要限界を試すにはガイドやインストラクターといった人間に頼らずに、一人で自分を試すことが必要だと考えています。
ガイドが手伝える段階には限界があるはずです。(ほんの入り口でしょう)
むしろそれを言わないと、ツアーで漕いだだけでは「なんだシーカヤッキングはこんなもんか」と思われても仕方ありません。
自分でリスクを負って責任を果たして生きて帰って来ることがシーカヤッキングの充実感の中身だと言えます。
ここで話が戻りますが、それには自分を自分でどこまで護れるのかを把握し、常にその準備と判断と覚悟が必要です。
だから逆説的ではありますが、結果としてアウトドア活動で本当の自分の限界を知ることはできません。
限界の2歩か3歩手前でやめておかないと本当に死んでしまう行為なのですし、事故を起こせば救助の人たちや、シーカヤックがそういうことで注目されれば日本中のシーカヤッカーにも迷惑がかかってしまいます。(地上人から見ればシーカヤッカーはどれも同じ種族に属していると映ります)
そこまで考えてシーカヤックを漕ぐと、「シーカヤッキングって何なんだろう???」というところに今度は到達すると思います。

写真:珍しい白い花びらのハマゴウの上にはスナハマハエトリが。なかなか無い写真になりました。

そしてそこから先はそれぞれだと思いますが、そういう思考の癖がやはり日常の生活にも影響を与えはじめ、結果的に誰かの考えを丸のみにするのでは個人差(体力、体質、性格など)をも含めた自分に合った判断はできないということに気づくと思います。
自分のことを一番知らないのは大抵自分ですが、自分だけが知っていることも沢山あるはずです。
それをどれだけ専門的な人だとしても、個人差(個体差)をも含めて完璧に判断できる専門家はいないのだと分かります。
結局自分の生死や生き方は自分一人で自分の責任で決めていくものだということがシーカヤックを漕いでいると分かります。
そして、カヤックを漕ぎ出すつもりで朝に海を観察していて「この海はなんだか怖いぞ」という説明できない感覚的なものが、死なないためにとても大切な判断を与えてくれるということにも抵抗することなくその直感を取り入れて判断するということが、日常でも当たり前になってくるといろいろなものに敏感になっていくと思います。

6日 千倉ジュウサンホシテントウ初見

初めて見ました!
オカヒジキにいましたが、河口付近のヨシ群落などで採取されることが多いとのこと。
河川改修でヨシ群落が減少している影響を受けているそうです。
テントウムシにしては真ん丸感がないのです。

8日 白浜第2のハマナタマメ発見

6月25日に発見した白浜のハマナタマメの小さな株から5mほどのところにもうひとつ見つかりました。
すぐ近くなのに意外と気づかないもので…。
考えてみると鞘で育つのだから、鞘ごと漂着すると海岸で鞘から出てきたタネが育つ経緯を想像するとハマナタマメはひとつあれば、そばにもまだある可能性が高いのだと気づきました。

10日 館山港 イルカ群れツイートあり

すぐ近くなのに見に行けませんでした…。
イルカに囲まれたかった。
先月の東京湾シャチ出現との関連は無いかな?という想像をしました。

写真:かわいらしい顔のオカヤドカリ。

13日 久しぶりにムラサキオカヤドカリ発見

前回、白浜で発見のサラサバイに入った小さな個体との遭遇は2015年8月のこと。
今回も東京海洋大学の濱崎活幸様に同定していただきました。
今回はイシダタミという2㎝ほどの貝に入っていて立派でした。(写真)
濱崎様によると、さらに大きく成熟した「紫色の個体が見つかれば報告の価値あり」と教えていただきました。
ただし天然記念物指定なため採取は禁止されています。
皆さんも発見時には写真を撮って頂き、是非報告してみてください。(こちらに連絡頂ければお繋ぎします)

14日 白浜第2のウミガメ巣確認

第1は6月23日。
ひと月に上陸1か所では気持ちの持続が難しいですが、だいぶん慣れました。
良い場所に産んでくれたので台風でも安心ですし、光害も最小限な位置ですので期待大な巣となりました。

14日 浜田でアオウミガメ死骸漂着

16日 白浜と丸山でアカウミガメ死骸漂着

16日 和田シロバナハマゴウ開花確認

花の上にスナハマハエトリがいました!
貴重な白い花びらのハマゴウの上とはなかなか貴重な写真が撮れました。(写真↑)

19日 ツルナにスナハマハエトリ タカラダニと同居

22日 3月に幼体を確認した白浜のクサグモ類を観察

3月に海岸で撮影した自分では種類の判らなかったクモの写真をSNS上でアップしたところクモ研究者の馬場友希様が「イナヅマクサグモの幼体のよう」と気づき、種を確認するために成体になるのを待っていました。
24日には5個体採取し馬場様に発送、興味深い結果判明。発表予定。
またまたクモ関係でおたのしみができました!

写真:23日発見の館山市ウミガメ上陸痕跡

23日 平砂浦 ウミガメ巣確認

館山市でやっと上陸が確認できました。
今年は少なすぎます…。

24日 白浜でハマナタマメ発見

6月14日発見のグンバイヒルガオのすぐそばでした。 種子が漂着しやすい場所というのはあると思いますがピンポイントで驚きました。

29日 南房総市南岸でシロヘリハンミョウの生息地発見

前回は2014年7月でしたので、かなり久しぶりです。
ハラビロハンミョウはところどころいますが、ここは磯で意外でした。
潮が退いて湿り気のある岩の辺りが好みのようです。
イソハエトリとは争うことなく同居していました。

写真:2014年以来のシロヘリハンミョウの生息地発見。地味ですが減りつつある種とされています。

30日 南房総市東岸にてミユビシギ1羽に足環(フラッグ)確認。

山階鳥類研究所のサイトにて南オーストラリア州で放鳥の個体と確認。
同研究所にメールし報告。

ヤマトマダラバッタ完全復活の様子

忘れられないような高潮の被害を南房総にも与えていった2017年21号台風以来減少していた某所の同種生息地でしたが、カウントしたわけではないですが以前の状態に近い感覚の密度に戻ったと感じました。
もういなくなるのではと思ったほどなので大変嬉しいです。

写真:メダイチドリ、キョウジョシギとミユビシギの計150羽ほどの群れの中に1羽の足環をつけたミユビシギを確認しました。(奥の白い鳥の群れはウミネコ)

お知らせ

「kayak~海を旅する本」Vol.73
発売中
店頭希望小売価格=840円(税込み)
藤田連載の「カヤック乗りの海浜生物記」は55「海抜0mのクモ」編です。
どうぞ宜しくお願い致します。



パタゴニア

 2021年6月の出来事




写真:様々な海浜植生に満たされた平砂浦海岸の砂丘。

ウミガメの調査は予定通り続いています。
この6月はまだ涼しくて、雨も合間を見て出動すればあまり浴びずに済んでいて比較的楽に調査ができました。(ただ7月に入ってからは大雨が続きましたが)
ただウミガメの産卵は今年もなかなか始まらず、6月は無しかな…?と思っていたところ23日に南房総市の太平洋岸(白浜町)で上陸痕が見つかりました。
状態から判断して産卵してあるものと考えられます。
ただ台風の高潮で影響を受けやすい場所に産んだため台風の度に心配な巣となりそうです。
ウミガメの調査の範囲でスナハマハエトリの記録も続けています。
夏にどのような行動をしているのか、暑いですから春の時期のように長時間の観察はしていませんが、その代わり毎日のように少しずつ記録する感じです。
特に個体識別用の写真はできるだけ撮っておいて秋になったら、それを元にじっくり考察したいと思っています。
スナハマハエトリを観察するようになって初めての年ですから通年の状況の概観ができれば良いなと思っています。



写真:キクメイシモドキと思われるサンゴ。
南房総市太平洋岸で数年前にたまたま発見したもの。

種子が漂着して分布を広げるハマナタマメやグンバイヒルガオなど温暖な地域の植物の発芽が見つかる季節でもあります。
この6月は特にハマナタマメがいくつか見つかりました。
28日に南房総市東岸で見つけた2株は2.5~3mほどもあって、ひとつは花も咲いており、ここまで育った株はしばらく見ていないので個人的には大発見でした。
その2つは、すぐ見えるところにあったのも驚きでしたが、南房総市の南岸で見つけた小さな株も5mほどしか離れていないところに、もう1株が見つかりました。
考えてみると豆は鞘で育ちますから、種子単体ではなく鞘のまま漂流し、そして打ちあがり、海岸で鞘が崩れて豆が砂の上に散らばったという場合の状況を想像すると、ある程度まとまった場所でいくつか発芽するパターンは多いのかもしれません。
2017年に初めて見つけたのはかなり大きな群落となったハマナタマメでした。※
発見は同じく6月で花も沢山咲いていて、こんな大きな群落に今までなぜ気づかなかったんだろうと驚きつつ、身近なところにハマナタマメという自分にとって新しい植物の観察対象が増えたことに喜んでいました。
ところが、発見した年の9月にもまた別の株が見つかり、一度ハマナタマメを十分観察したことでハマナタマメを見つけられる目が出来上がったようでした。
継続的な観察が楽しみになっていたそんな矢先、10月に南房総に大きな高潮被害をもたらした台風21号によりそれらのハマナタマメは全て一掃されてしまいました。



写真:美しいハマナタマメの花。
その他のマメ科とは上下が逆に開くのが特徴だそうです。

やっと身近になったのに…と大変残念でしたが、これらの株のおかげでハマナタマメを見つけられる目を得ることができました。
それ以降、海岸に漂着し発芽した株を見つけることができるようになりました。
しかし、十分な大きさまで育ち花を咲かせている株は見つかりませんでした。
そして今回、4年振りにハマナタマメの花を見ることができたのでした。
まるで幻のように消えてしまった2017年の群落のように、このハマナタマメも十分に大きく広がって沢山の実を付けてほしいと思いますが、今回は2017年の群落と比べるとその生育環境が大きく違います。
2017年はカヤックでしかアクセスできない磯の後ろにある脆い崖の斜面に広がっていたのですが、今回はなんと海岸と、海岸に沿った海岸道路の間にある狭い空間で堤防の窪みの中から生えていたのでした。
写真は省いてしまいましたが、なかなか悲しい環境に育っています。
その窪みにおそらく台風の高潮が襲った時に種子が取り残されていたのでしょう。
このような場所ではあまり目立つようになると雑草として刈られてしまう心配もありますし、そもそもコンクリートの上では広がっていったとしても安定しないでしょう。
花だけを見ればご覧の通り美しいですが、やはり自然環境の中でそれが咲いている、その事自体が素晴らしいのだと思います。


写真:たまにオカヒジキが齧られたような痕を見たことがあったのですが、ついにハトが食べている現場に遭遇し理由が判明。
意外でした。

6日にはカツオノカンムリという一般にはクラゲの仲間とされる生き物が多数打ちあがりました。
電気クラゲと言われるあの浮袋クラゲ、カツオノエボシにも近い生き物ですがこのカツオノカンムリは写真のように帆を持っています。
これが打ちあがるのは南房総ではそれほど珍しいことではないのですが、今回のように数えきれないくらいの数でしかも新鮮な状態で打ちあがっている場面に遭遇することは稀です。
乾きやすいので、陽が高くなるとすぐに干からびてしまうのです。
それで思い立って個体毎の差異を記録するには良い機会だと思い、真上に向いて、きれいな状態で、新鮮なものだけを選んで片っ端から撮影していきました。
コマ動画にしてYouTubeにアップしてありますので、暇な時にでも見てみてください。
立体的には写真のようですが、真上から見ると、その船体にあたる部分が楕円なこと、帆が船体に対して斜めに設定されていること、更に帆が微妙に捩れているものもあるのが分かります。
この形態で帆走するにはヨットのように適切な向きで船体下部に板状の部位が必要になると思いますが、カツオノカンムリにはありません。
これではクルクルと旋回してしまうだろうと思っていましたが、そんなある日、潮だまりに迷い込んでいた小型個体を観察する機会に恵まれました。



写真:セイリングするクラゲという変わり者。
その帆走のための構造は簡単なようで、よくよく見てみるとなかなか不思議です。

観察してみるとやはり微風を受けてクルクルと回っていて、移動する能力はほとんど得られていないようなのです。
そしてその数個体は風を受けて離れ離れになることなく、むしろ表面張力の影響も受けながら一塊になっていることが多いのです。
これもYouTubeにアップしてありますので、是非動画を見てみてください。
カツオノカンムリが多数の仲間と群れを作るようにして暮らしていることが今回のような多数同時漂着を見れば分かります。
そう考えると、それぞれがぐんぐん移動するよりも、むしろ黒潮のような強い海流に影響されて群れが散り散りにならないように風の力を使ってできるだけ移動しないようにするために、その姿が役立っているように感じました。
こういう生き物の存在意義は我々人間からしたら理解しにくいですが、これだけの数がそのような複雑なデザインを得て生き延びてきたことを考えれば、海にあってかなり重要な位置を占めているのでしょう。



写真:ハヤブサの雛たちは親鳥が持ち帰った食べ物に大騒ぎ!

先月確認した内房某所のハヤブサのヒナ2羽は12日のツアーの際に無事に巣立った姿が確認できました!
ツアー中でしたが、私の方が興奮してしまっていて気持ちを抑えるのに困りました。
その後あらためて観察に行き、写真を記録をしました。
ここまでくればもう心配もないので、むしろ邪魔者である観察者は現場に行っていません。
元気に育ってほしいものです。
それにしても海岸に響き渡るヒナの親鳥に餌を求める大きな鳴き声はなんとも心が揺さぶられる感じがします。
あのような大きな声で鳴いていても、巣立つ頃には十分に大きくなって天敵もいないのですから親鳥も心配はないのでしょう。
それよりも十分な食べ物を確保して与えることに精一杯のようでした。
砂浜海岸ではコチドリ、シロチドリの繁殖活動が変わらず続いていますが今年は海水浴場が開設されると決まり、海岸の整備も始まっています。
海水浴場や目立つ海岸での海岸清掃や重機による海岸を均す作業は過去にはかなりの数でチドリの卵、ヒナたちが死んだ原因になっていると考えられます。
チドリのヒナはハヤブサのヒナたちと比べると非常にか弱く見えて、実際に海岸に行ってみると「先日まで走り回っていたヒナが1羽減って…」ということは多々あり、捕食者に対しても人の活動の影響にも非常に弱いものです。


写真:キャタピラーの跡とシロチドリの雛たち。

また海岸の植物もこの時に大きく手を加えられ、一部の貴重な植物も普通種と一緒くたにされて除去されてしまう場合があります。
そもそも海浜植物というのは海岸線という線上の狭く限られた環境にしか生息できない特性を持っているため、生息環境は分断されやすく、また本来野生の生き物に踏み締められる可能性も低い環境の生息者ですから、人による繰り返しの踏みしめだけでも弱る可能性がありますが、重機による踏みしめは尚更です。
海岸清掃を館山市も南房総市も重機で行うことが多いですが、時代に合った方法と言えなくなってきていると思います。
海岸環境を人工環境と同じ方法で手入れをしていては、一見大した変化を感じないと思いますが海岸特有の種が排除され、それ以外の場所でも生き延びられる種に置き換わってしまうなどの心配があります。
繊細でありながら、一方では海岸の砂丘維持など大きな役割を地味に果たしている海浜植生に対して市はもっと慎重に対応する必要があると思います。
観光資源としても市税を使って植えた草花以上に自然に咲く野生の植物が有用だと知れば役所も多少気を遣うのかもしれませんが、それではあまりに貧しい感覚といえます。
海岸に様々な自然の花々が咲いていることを自慢できる世代がこれからの南房総に育ってくれることを期待しています。



写真:ハマオモト(ハマユウ)の季節です。

メモ:6月28日東京湾シャチ目視情報(Twitter)

お知らせ

海上のクモを調べるきっかけとなった2006年と2020年に富津市沖で遭遇したクモについての報告がインターネットでも公開になりました!
Lycosid spiders found in coastal waters of Japan. Baba YG , Fujita K, Acta Arachnologica Vol.70.日本蜘蛛学会.2021
無料でご覧いただけますので是非!
英文ですが翻訳ソフトでぜひ読んでみてください。
ただしソフトでは「ballooning(風を受けて飛行する習性)」が「気球を使って」や、種の名称「Wolf spiders(コモリグモ)」が違ってしまうなど、少しクモについての用語では間違えもありますが、だいたいの事は理解していただけると思います。
この報告がカヤッカーに海の上のクモや虫に興味を持って頂けるきっかけになれば嬉しいです。
更には様々な海上の生き物の研究をしている人たちがカヤックに興味を持つきっかけにもなったら嬉しいです!







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